+++ お題1:雑踏


「何がガンダムよ。えらっそうに…あたしの両親を返して。」
「ちょっと…。」
「あんな奴ら、死ねばいいのよ。」
「止めなさいよ。」
「何よっ!?あんたは悔しくないわけ!?あたしに力があったら、あんな奴ら殺してやるのに。」



コロシテヤルノニ。



ふっと耳に聞こえた言葉に、足元が掬われたような感覚。

コロニーのため。

コロニーのため。

コロニーのため。

わかってる。

コロニーのためにと俺がしたことは、殺人だ。
地球側からみたら、殺戮者だ。
わかってた。
俺が鎌を振るった相手もまた、守る人がいて、守るものがあって。

人で。

命ある人で。

いつからこの手で、平気で人を殺すようになったのだろう。

もう覚えてもいない。

人の肌にナイフをつきたてたときの感触も、銃を打った時の衝撃も、人の肉の焼ける匂いも。

いつから平気になったのだろう。

人の命を沢山奪った自分達が、ここで、こうして生きていていいのだろうか?

ずっと、ずっと、心の奥底で思っていたけれども、口にしなかった。
したらそこで俺は終わる。

「デュオ?」

震える俺の手を掴む、ヒイロの手にチカラが込められて。

「顔色が悪い。」
「……そ…か?」
「デュオ?」
「悪い…めちゃ…気分悪ィ…。」

一生背負うこの罪の重さに、耐え切れるのかと不安になるときがある。
いっそ死ぬことで、罪を償えればいかに楽だったか。
俺にヒイロがいるように、俺が殺してきた相手にも大切な人がいたのだろう。
俺がヒイロを失いたくないと思うように、俺が殺してきた相手を失いたくないと思う人がいたのだろう。

それを知っていたし、わかっていたけれど、そんなことを考えたら俺は死神になんてなれなかったから。

感情を殺して、考えないで、ただコロニーのために。

すれ違う人々の声が、耳に響く。
ただの笑い声だったり、泣き声だったり、怒っている声だったり。
色々な声が聞こえて。

それらはすべて自分に向けられているような気さえした。

「ヒイロ…俺たちは間違っていたのかな?」
「それは誰にもわからない。」
「………。」
「あの戦争で多くの命が失われ、多くの人々が被害を受けた。繰り返さないこと。それが今一番必要だということだけは確かだ。」
「俺は生きていくために、この手を血に染めてきたけれども。俺がこの手にかけた人たちには大切な人がいて、モノがあって…そして殺してきた人を愛する人もいて…。」

体が震えた。
たっていられない。
ぞくりと背筋が凍る。
ヒイロの手を握り締める手に力が込められる。

「今は俺にも、お前にも守りたいものがあるだろう。」
「……ヒイロ?」
「守りたいものがあるから。だから繰り返してはいけないんだ。だから俺はリリーナを守る。それは結果的にこの平和なときを、お前を、守ることになるから。」
「ヒイ…。」
「あの戦いで学んだことを忘れてはいけない。失った多くの犠牲のもとに得た、大切なことだ。そうだろう?今、どうするべきか。それを考えろ。それが俺達の…。」

背負った罪の重さはこれから先、何年たってもかわることはないのだろう。
重さがかわってはいけないのだ。
どんなに償っても、償いきれないほどの命を奪った。
この世にたったひとつしかない命を。

涙が溢れた。

「命を懸けてでも守りたいものがある。ただ命を懸けるんじゃなくて、何に命をかけるかが大事だと俺は思う。命を懸けて戦争をするんじゃなくて、命を懸けて戦争をさせない。それが俺がコレから先、心に誓ったことだ。」

ヒイロがリリーナのSPになったと聞いたとき、嫉妬にも似た感情を胸に抱いたのが恥ずかしくなった。あのヒイロが、自分の意思でなったのだ。それには彼なりの意味が、決意があったのだろう。
戦争を起こさせないという。
戦争をさせないように頑張っているリリーナを守ることが、一番だと考えて。

「俺、お前のことを誇りに思う。」
「………俺もだ。」
「俺は何もしてない。」

恥ずかしいくらいに。
ただ趣味で始めたカメラ。
ヒイロを撮りたくてはじめたカメラ。

「お前の写真は命の大切さを思い出させる。」
「…なんじゃそりゃ。」
「綺麗なその景色を守りたいと思わせる。」
「………。」
「それは結局、俺と行き着く先は一緒だろう。」

行きかう人々の会話が聞こえた。
笑っていたり、泣いていたり、怒っていたり。

ぎゅっとヒイロの手を握り締める。
こんな人ごみの中、大の男二人が手を繋いでいるなんて恥ずかしいといつも思っていたけれど。
今このときだけは放したくはなくて。

人は過ちを犯す生き物だから、またどっかのばかが戦争をおっぱじめようとするかもしれない。
ガンダムを折角処理したけれども、同じようなものを作る奴がいるかもしれない。
それを防ぐのに、命を懸けるのも悪くはない。
俺が幼少の頃から得てきた力は、そのためにあるのかもしれない。

守りたいものを守るために。





+++あとがき

暗いですから。
ってか恥ずかしいですから…(遠い目)
なんかすっごく恥ずかしいですから…私。
戦争はよくないよ!とかそーゆーことがいいたかったわけではなかったのですが…
ちょっと悩むデュオがかきたかっただけなのに。
この時期に書いたせいかこんな話に…。

2005/08 天野まこと



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