+++ お題4:フェンス


ガンダムを降りて、自分の好きな人生を、好きなだけやろうと思ったとき。
真っ先に浮かんだのが学生生活だった。
任務とか、駆け引きとか、探りとか、そういうのを抜きにして満喫してみたかった。
わけのわからない授業に頭を抱えてみたり、試験前に慌ててみたり、友達と裏表無く付き合ったり。
そういうものに昔から憧れていたから。

そして…ガンダムを降りた後。
色々と覚えている数々の出来事の中で。
楽しかったのが学生生活だった。
ヒイロと過ごした、あの僅かな学生生活の日々。
それが楽しくて―――楽しかった学生生活。
ヒイロのいた、普通の10代のような生活。
ヒイロはいないけれど、いないけれど――――いなくても、何故かまた学校にいきたかったのだ。
昔を懐かしんでとか、昔にかえりたくてとか、そういうものではないとはおもうのだけれども。

休み時間。
いつものようにクラスメイトと一緒に3オン3をしていて。(※3対3のバスケ)
仲間からのパスを受け取って、そのままゴールにシュートをうった…俺の体が固まる。
ゴールの向こう側、フェンスの向こう。
見慣れた、鋭いまなざし。

「ヒイロっ!?」

ガンっ!!

音が響いて、ボールがゴールに弾かれる。
それを拾う友人の横をすり抜けて、そのままフェンスに駆け寄った。

「デュオ?」
「悪いっ。ちょっと抜ける。」
「5人じゃできねぇよ。」
「だから悪いって!!」

ガシャっ!!

背中に浴びせられるブーイングの嵐をそのままに、勢いよくフェンスにしがみついた。

「ヒイロお前どうして………?」
「………。」

相変わらずの無表情。
ただじっと…鋭いまなざしが俺をみていた。
ヒイロの綺麗な瞳に、自分が映る。
ばかみたいに驚いて、ばかみたいに舞い上がっている自分の顔。

「何?お前も学生生活のやり直し?」
「お前と一緒にするな。」

バカみたいに舞い上がって、声が裏返りそうになる俺に対して、ヒイロは相変わらずの口調。
でもそれが懐かしい。
懐かしくて、なんだか嬉しくて。

フェンスを握り締める手に力を込める。
たった1枚のフェンス。
その向こう側。
ヒイロがいる。

届かない。

もどかしい。

触れたい。

「ヒイロ。」

名前を呼ぶ。
願いを込めて。

「ヒイロって。」

名前を呼んだ。
祈るように。

そうしたら。ヒイロは軽くため息をついて…そっと…フェンスに触れた。
触れたヒイロの指に、自分の指を重ねる。

ひやりとした相変わらずのヒイロの指先に、胸が苦しかった。
ヒイロの指先を撫でる。
自分の熱い指先に、ヒイロの冷たい熱が浸透して。
そしてヒイロの冷たい指先に、自分の熱が伝わる。

ヒイロの指とフェンスを掴んで。
そのままこつんと。
フェンスに額を押し当てた。

「だいたいお前、気がついたなら声くらいかけてこいっての。」
「なんでだ。」
「だって折角お友達なわけだし。」
「誰と誰が。」
「俺とヒイロ。」
「ドコが。」
「ひでぇ。」

苦笑する。
苦笑した俺の額に、冷たくて柔らかな物が押し当てられて、驚いて顔を上げた。
顔を上げた先には、口元を緩めるヒイロの顔。
とたんに先ほどの額に感じたものがなんだったのかわかって、顔がかーっと熱くなった。
熱くなったら益々ヒイロの口元が緩んで、瞳が細められて―――。

「デュオ…探した。」
「探してくれたんだ?」
「……勝手にいなくなったお前に一言文句が言いたかった。」
「……文句かよ。」
「ああ。」

笑うヒイロに、頬がゆるんだ。
きっと今の俺は、さっきよりももっと、ずっと。

バカみたいな顔をしていると思う。

フェンス越し。
ヒイロの指と一緒に握り締めたフェンス。
その指に力を込めた。




+++あとがき

………逃げていいですか。
恥ずかしい!!
ってかこれまた偽者だなおい…。
個人的に121だけど、12かな…これは。

2004/10 天野まこと



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