ガンダムを降りて、自分の好きな人生を、好きなだけやろうと思ったとき。 真っ先に浮かんだのが学生生活だった。 任務とか、駆け引きとか、探りとか、そういうのを抜きにして満喫してみたかった。 わけのわからない授業に頭を抱えてみたり、試験前に慌ててみたり、友達と裏表無く付き合ったり。 そういうものに昔から憧れていたから。 そして…ガンダムを降りた後。 色々と覚えている数々の出来事の中で。 楽しかったのが学生生活だった。 ヒイロと過ごした、あの僅かな学生生活の日々。 それが楽しくて―――楽しかった学生生活。 ヒイロのいた、普通の10代のような生活。 ヒイロはいないけれど、いないけれど――――いなくても、何故かまた学校にいきたかったのだ。 昔を懐かしんでとか、昔にかえりたくてとか、そういうものではないとはおもうのだけれども。 休み時間。 いつものようにクラスメイトと一緒に3オン3をしていて。(※3対3のバスケ) 仲間からのパスを受け取って、そのままゴールにシュートをうった…俺の体が固まる。 ゴールの向こう側、フェンスの向こう。 見慣れた、鋭いまなざし。 「ヒイロっ!?」 ガンっ!! 音が響いて、ボールがゴールに弾かれる。 それを拾う友人の横をすり抜けて、そのままフェンスに駆け寄った。 「デュオ?」 「悪いっ。ちょっと抜ける。」 「5人じゃできねぇよ。」 「だから悪いって!!」 ガシャっ!! 背中に浴びせられるブーイングの嵐をそのままに、勢いよくフェンスにしがみついた。 「ヒイロお前どうして………?」 「………。」 相変わらずの無表情。 ただじっと…鋭いまなざしが俺をみていた。 ヒイロの綺麗な瞳に、自分が映る。 ばかみたいに驚いて、ばかみたいに舞い上がっている自分の顔。 「何?お前も学生生活のやり直し?」 「お前と一緒にするな。」 バカみたいに舞い上がって、声が裏返りそうになる俺に対して、ヒイロは相変わらずの口調。 でもそれが懐かしい。 懐かしくて、なんだか嬉しくて。 フェンスを握り締める手に力を込める。 たった1枚のフェンス。 その向こう側。 ヒイロがいる。 届かない。 もどかしい。 触れたい。 「ヒイロ。」 名前を呼ぶ。 願いを込めて。 「ヒイロって。」 名前を呼んだ。 祈るように。 そうしたら。ヒイロは軽くため息をついて…そっと…フェンスに触れた。 触れたヒイロの指に、自分の指を重ねる。 ひやりとした相変わらずのヒイロの指先に、胸が苦しかった。 ヒイロの指先を撫でる。 自分の熱い指先に、ヒイロの冷たい熱が浸透して。 そしてヒイロの冷たい指先に、自分の熱が伝わる。 ヒイロの指とフェンスを掴んで。 そのままこつんと。 フェンスに額を押し当てた。 「だいたいお前、気がついたなら声くらいかけてこいっての。」 「なんでだ。」 「だって折角お友達なわけだし。」 「誰と誰が。」 「俺とヒイロ。」 「ドコが。」 「ひでぇ。」 苦笑する。 苦笑した俺の額に、冷たくて柔らかな物が押し当てられて、驚いて顔を上げた。 顔を上げた先には、口元を緩めるヒイロの顔。 とたんに先ほどの額に感じたものがなんだったのかわかって、顔がかーっと熱くなった。 熱くなったら益々ヒイロの口元が緩んで、瞳が細められて―――。 「デュオ…探した。」 「探してくれたんだ?」 「……勝手にいなくなったお前に一言文句が言いたかった。」 「……文句かよ。」 「ああ。」 笑うヒイロに、頬がゆるんだ。 きっと今の俺は、さっきよりももっと、ずっと。 バカみたいな顔をしていると思う。 フェンス越し。 ヒイロの指と一緒に握り締めたフェンス。 その指に力を込めた。 +++あとがき ………逃げていいですか。 恥ずかしい!! ってかこれまた偽者だなおい…。 個人的に121だけど、12かな…これは。 2004/10 天野まこと |