てのひらが真っ赤だった。

血で塗れたそのてのひら。

いくら洗っても、洗っても、洗っても。

その紅はぬぐえなくて。

暗闇の中、必死に手をのばして。

必死に走って。

光の方へ。

光の方へ。

光の方へと―――――。





 +++ お題12:罪





「っ………!!」

ばちっと目を開ければ、高い天井。
はぁはぁはぁと呼吸が乱れて、汗でぐっしょりと濡れる寝間着が気色悪かった。
汗で濡れた額に貼り付く前髪をうっとおしげに拭って、ぶるりと身体を震わせる。

「……くそっ…。」

起き上がると、汗が冷えたのかその冷たさに身体が震えた。

胸がムカムカする。
吐きそうだった。
嫌な夢。

夢?

いや、現実。

血で濡れた、真っ赤な、俺の手。

緩んでしまったみつあみをほどいて、ベットから降りる。
冷たい床の感触に心まで震えて。

冷蔵庫からミネラルウォーターをとりだしてコップ一杯のんで。
汗でぐしょぐしょの寝間着を脱ぎ捨てた。
電気をつかないその部屋は、月明りだけでぼんやりと明るくて。
青白い部屋全体に、ふらりと誘われるまま…窓に近寄る。

青く黒い空にはぽっかりと満月。

金色のお月様。

見れば思い出すのは幼い頃。
墓場にしか見えなかった月。
睨み付けては泣きながら、ともの墓を立てていた日々。

満月の夜は決まって夢を見る。

いや、幼い頃の現実を。

幼い頃の俺を。

手を、血で、真っ赤に。

染めてた頃を。

人を殺す事を、人を傷つけることを、人を犠牲にしてまで何かを手に入れる事を。

躊躇わなかったあの頃。

「くそっ…。」

冷たくなった下着も脱ぎ捨てて、バスルームに走りこむ。
シャワーのノブをひねれば、まだ冷たい水が勢いよくでてきた。

「くそっ…。」

その冷たさに身体が震える。
頭から水を浴びて、唇を噛み締めて。
潤みそうになった瞳に、慌ててぎゅっと瞳を閉じた。

「ヒイロ。」

名前を呼んだ。

「ヒイロ。」

名前を呼んだ。
返事のない名前を。

「なんで…こんな夜に、傍に、いねぇんだよ…。」

満月の夜は。
隣に誰かのぬくもりを。
それがないと眠れない。

血が騒ぐ。

満月が見ている。

満月が。

俺の心を蝕む。

「忘れたいのに。」

しゃーっと水の音が狭いバスルームに響いて。

「忘れさせてくれよ。」

冷たい水が流れる中。

生暖かな水が、頬を流れた。





+++あとがき

イチニじゃねー!!
しかも暗い〜〜!!
わーん!もうなんでもいいやこんちくしょう!!

2004/05 天野まこと



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