てのひらが真っ赤だった。 血で塗れたそのてのひら。 いくら洗っても、洗っても、洗っても。 その紅はぬぐえなくて。 暗闇の中、必死に手をのばして。 必死に走って。 光の方へ。 光の方へ。 光の方へと―――――。
「っ………!!」 ばちっと目を開ければ、高い天井。 はぁはぁはぁと呼吸が乱れて、汗でぐっしょりと濡れる寝間着が気色悪かった。 汗で濡れた額に貼り付く前髪をうっとおしげに拭って、ぶるりと身体を震わせる。 「……くそっ…。」 起き上がると、汗が冷えたのかその冷たさに身体が震えた。 胸がムカムカする。 吐きそうだった。 嫌な夢。 夢? いや、現実。 血で濡れた、真っ赤な、俺の手。 緩んでしまったみつあみをほどいて、ベットから降りる。 冷たい床の感触に心まで震えて。 冷蔵庫からミネラルウォーターをとりだしてコップ一杯のんで。 汗でぐしょぐしょの寝間着を脱ぎ捨てた。 電気をつかないその部屋は、月明りだけでぼんやりと明るくて。 青白い部屋全体に、ふらりと誘われるまま…窓に近寄る。 青く黒い空にはぽっかりと満月。 金色のお月様。 見れば思い出すのは幼い頃。 墓場にしか見えなかった月。 睨み付けては泣きながら、ともの墓を立てていた日々。 満月の夜は決まって夢を見る。 いや、幼い頃の現実を。 幼い頃の俺を。 手を、血で、真っ赤に。 染めてた頃を。 人を殺す事を、人を傷つけることを、人を犠牲にしてまで何かを手に入れる事を。 躊躇わなかったあの頃。 「くそっ…。」 冷たくなった下着も脱ぎ捨てて、バスルームに走りこむ。 シャワーのノブをひねれば、まだ冷たい水が勢いよくでてきた。 「くそっ…。」 その冷たさに身体が震える。 頭から水を浴びて、唇を噛み締めて。 潤みそうになった瞳に、慌ててぎゅっと瞳を閉じた。 「ヒイロ。」 名前を呼んだ。 「ヒイロ。」 名前を呼んだ。 返事のない名前を。 「なんで…こんな夜に、傍に、いねぇんだよ…。」 満月の夜は。 隣に誰かのぬくもりを。 それがないと眠れない。 血が騒ぐ。 満月が見ている。 満月が。 俺の心を蝕む。 「忘れたいのに。」 しゃーっと水の音が狭いバスルームに響いて。 「忘れさせてくれよ。」 冷たい水が流れる中。 生暖かな水が、頬を流れた。 +++あとがき イチニじゃねー!! しかも暗い〜〜!! わーん!もうなんでもいいやこんちくしょう!! 2004/05 天野まこと |