「な?ヒイロ、セックスしねぇ?」 ソレをもちかけたのは俺から。 ベットに腰掛けて窓の外を眺めていて…空にぽっかり浮かんだ満月をじっとみていて。 ふっと…やりたくなったのだ。 満月が俺達を見ている中で。 それは初めてヒイロとセックスした夜と一緒だった。 一瞬訝しげに眉を寄せたヒイロが、一歩俺に近付く。 真っ直ぐに俺を見てくるヒイロから瞳は逸らさなかった。 それどころか、近付いてきたヒイロの腕をそっと掴んで。 その細い手首に唇を寄せる。 「嫌だったらお前寝てるだけでいい。俺が勝手にする。」 そう言った直後にばしっと音がして、ヒイロの腕が俺の唇に霞めて。 振り解かれた手が痛くて、ヒイロの腕が霞めた唇がじんっと痛んだ。 見上げればヒイロの冷たい瞳が俺を見おろしていて。 こんなヒイロの瞳は正直恐い。 何を考えているのかわからないから。 もともと口数が少ないから、ヒイロの本心は瞳で探るしか無い。 それなのにそれが出来ない程、この瞳は冷たいのだ。 怒らせたかな? そう思って覗き込んだヒイロの瞳が、伏せられる。 相変らず何考えてるのかわからなかった。 どうしたもんかと思ってたら、ヒイロの手が、俺の頭にまわされて。 ぎゅっと。 抱き締められた。 「ヒイロ?」 少し苦しいその抱擁に、正直戸惑いが隠せない。 冷たいアイツの手足。 冷たいヒイロの身体。 でも耳に聞こえてくるのは、どくんどくんと…命の音。 目を瞑ればその規則正しいリズムが心地良かった。 ふわりと耳の裏を撫でられて、ヒイロの唇が俺の額を霞めて、瞼を、鼻を、頬を滑って。 しっとりと。 口付けられる。 ヒイロの唇が霞めた個所が、じんわりと熱を帯び始める。 その擽ったいようなキスの愛撫は、俺の身体を火照らせるには十分で。 そのままとさりと、ベットに押し倒されて、ヒイロの頭が俺の首筋に埋められる。 その感触に身体が粟立った。 口許で揺れるヒイロの黒髪に指を絡めて、ふっと………顔を上げる。 ベットの横の、小さな窓。 少し雲がかった空に、浮かぶ満月。 月光が部屋を明るく染めて。 灰色の雲が、ゆらりゆらりと月を隠せば、部屋も暗くなって。 とたんに涙が零れそうになった。 あと何回。 こんな夜を過ごせばいい? あと何回。 こうして誰かのぬくもりを求める夜がくる? あと何回。 ヒイロを騙せばいい? いつになれば、ただただ純粋に。 愛しい人を。 ヒイロを。 求めることが出来る? 「ヒイロ。」 「ヒイロ。」 「ヒイロ。」 小さく何度もヒイロの名前を呼ぶ。 ヒイロの熱い吐息が、身体にかかって、身体が震える。 沸き上がる快感の波に、ちらちらと浮かぶ罪悪感。 するすると動き回るヒイロの指先。 身体はそれに敏感に反応して、息が上がってくる。 熱でじんわりと汗ばんだ身体。 ヒイロの身体もいつの間にか熱くなっていて。 汗ばんだ身体の、肌と肌が触れ合う感触。 もう慣れた。 何度もこんな夜を繰り返してきたから。 満月の夜に。 「ヒイロっ…!」 伸ばした指先に、ヒイロの指が絡まる。 それさえも刺激で、身体が震えて。 雲が動いて。 再び光が見えてくる。 それにビクリと身体が震えて、がむしゃらにヒイロにしがみついた。 ぎゅっと瞳を瞑って、瞼の裏が明るくなることで込み上げてくるモノを必死で堪えて。 「デュオ。」 耳元で、ヒイロの色を含んだ声が聞こえた。 乱れた呼吸で返事は出来なくて。 虚ろに潤んだ瞳で、ヒイロの瞳を覗き込む。 真剣なヒイロの瞳に、どきりと心臓が跳ねた。 すべて見透かされたような、そんなヒイロの強い瞳。 「俺だけ、見ていろ。」 囁かれた言葉に、涙が溢れた。 +++あとがき 満月ネタが続いております…!! 使いやすい設定だったらしい…。 螺旋。 螺旋? 繰り返される、満月の夜の、情事。 です。 ちなみにヒイロと出会う前はデュオは―――ご想像にお任せします。 たぶんすぐに浮かんだソレが答えです(苦笑) うちのデュオはそんな感じ。 だからデュオは自分は汚いと思ってるし、ヒイロが綺麗だと思ってるんです。 綺麗なヒイロに知られたくないんだろうなぁ〜ヒイロは知ってるけど。 いや、わかんだろ。やっぱ、さすがにヒイロだってわかるよ…。 2004/05 天野まこと |