+++ お題13:螺旋





「な?ヒイロ、セックスしねぇ?」

ソレをもちかけたのは俺から。
ベットに腰掛けて窓の外を眺めていて…空にぽっかり浮かんだ満月をじっとみていて。
ふっと…やりたくなったのだ。
満月が俺達を見ている中で。
それは初めてヒイロとセックスした夜と一緒だった。

一瞬訝しげに眉を寄せたヒイロが、一歩俺に近付く。
真っ直ぐに俺を見てくるヒイロから瞳は逸らさなかった。
それどころか、近付いてきたヒイロの腕をそっと掴んで。
その細い手首に唇を寄せる。

「嫌だったらお前寝てるだけでいい。俺が勝手にする。」

そう言った直後にばしっと音がして、ヒイロの腕が俺の唇に霞めて。
振り解かれた手が痛くて、ヒイロの腕が霞めた唇がじんっと痛んだ。
見上げればヒイロの冷たい瞳が俺を見おろしていて。

こんなヒイロの瞳は正直恐い。
何を考えているのかわからないから。
もともと口数が少ないから、ヒイロの本心は瞳で探るしか無い。
それなのにそれが出来ない程、この瞳は冷たいのだ。

怒らせたかな?

そう思って覗き込んだヒイロの瞳が、伏せられる。
相変らず何考えてるのかわからなかった。
どうしたもんかと思ってたら、ヒイロの手が、俺の頭にまわされて。

ぎゅっと。

抱き締められた。

「ヒイロ?」

少し苦しいその抱擁に、正直戸惑いが隠せない。
冷たいアイツの手足。
冷たいヒイロの身体。
でも耳に聞こえてくるのは、どくんどくんと…命の音。
目を瞑ればその規則正しいリズムが心地良かった。

ふわりと耳の裏を撫でられて、ヒイロの唇が俺の額を霞めて、瞼を、鼻を、頬を滑って。
しっとりと。
口付けられる。

ヒイロの唇が霞めた個所が、じんわりと熱を帯び始める。
その擽ったいようなキスの愛撫は、俺の身体を火照らせるには十分で。
そのままとさりと、ベットに押し倒されて、ヒイロの頭が俺の首筋に埋められる。
その感触に身体が粟立った。
口許で揺れるヒイロの黒髪に指を絡めて、ふっと………顔を上げる。

ベットの横の、小さな窓。

少し雲がかった空に、浮かぶ満月。
月光が部屋を明るく染めて。
灰色の雲が、ゆらりゆらりと月を隠せば、部屋も暗くなって。

とたんに涙が零れそうになった。

あと何回。
こんな夜を過ごせばいい?

あと何回。
こうして誰かのぬくもりを求める夜がくる?

あと何回。
ヒイロを騙せばいい?

いつになれば、ただただ純粋に。
愛しい人を。
ヒイロを。
求めることが出来る?

「ヒイロ。」

「ヒイロ。」

「ヒイロ。」

小さく何度もヒイロの名前を呼ぶ。
ヒイロの熱い吐息が、身体にかかって、身体が震える。
沸き上がる快感の波に、ちらちらと浮かぶ罪悪感。

するすると動き回るヒイロの指先。
身体はそれに敏感に反応して、息が上がってくる。
熱でじんわりと汗ばんだ身体。
ヒイロの身体もいつの間にか熱くなっていて。
汗ばんだ身体の、肌と肌が触れ合う感触。
もう慣れた。
何度もこんな夜を繰り返してきたから。

満月の夜に。

「ヒイロっ…!」

伸ばした指先に、ヒイロの指が絡まる。
それさえも刺激で、身体が震えて。

雲が動いて。
再び光が見えてくる。
それにビクリと身体が震えて、がむしゃらにヒイロにしがみついた。
ぎゅっと瞳を瞑って、瞼の裏が明るくなることで込み上げてくるモノを必死で堪えて。

「デュオ。」

耳元で、ヒイロの色を含んだ声が聞こえた。
乱れた呼吸で返事は出来なくて。
虚ろに潤んだ瞳で、ヒイロの瞳を覗き込む。
真剣なヒイロの瞳に、どきりと心臓が跳ねた。
すべて見透かされたような、そんなヒイロの強い瞳。

「俺だけ、見ていろ。」

囁かれた言葉に、涙が溢れた。





+++あとがき

満月ネタが続いております…!!
使いやすい設定だったらしい…。
螺旋。
螺旋?

繰り返される、満月の夜の、情事。

です。
ちなみにヒイロと出会う前はデュオは―――ご想像にお任せします。
たぶんすぐに浮かんだソレが答えです(苦笑)
うちのデュオはそんな感じ。
だからデュオは自分は汚いと思ってるし、ヒイロが綺麗だと思ってるんです。
綺麗なヒイロに知られたくないんだろうなぁ〜ヒイロは知ってるけど。
いや、わかんだろ。やっぱ、さすがにヒイロだってわかるよ…。

2004/05 天野まこと



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