+++ お題14:キセキ





ぱらりとその分厚い本をめくる。
1枚1枚めくって、眺めているうちに顔が緩んだ。

初めてヒイロの写真を撮ったのは一緒に住んですぐの時。
ヒイロからもらったカメラが嬉しくて嬉しくて、なんとなく構えては部屋のあちらこちらを写して。

『すっげぇ。すっげぇ。ありがとなヒイロ!』

そういった俺に、ヒイロはただ唇の端を持ち上げて。
ゆったりと瞳を伏せて、小さく

『ああ。』

と言った。
その声と、その顔が嬉しくて、なんだか嬉しくて。
そして瞳を奪われて。

思わず無意識にカメラを構えてた。

ぱしゃりと撮ると、ヒイロはわずかに不機嫌そうに眉を寄せたけれど、でも俺はヒイロのその顔が撮れたのが嬉しくて。

それからは度々、二人のオフが重なるたびにどこかに出かけては、景色を撮ったり、ヒイロを撮ったり。

ぱらりとめくる。
色々な風景写真の合間に、ヒイロの写真。
その風景写真を見れば、いつ、どこに行った時のかはわかった。
それがわかれば、その時のヒイロとの他愛も無い会話もわずかに思い出される。
その内容はたいしたものじゃないんだけれど、自然と顔が緩んだ。

「ははは。コレ、笑ってる。」

ぱらりとめくって、ぱらりとめくって。

ふっとした合間に見せたヒイロの表情。
どれもこれも自分が見つけたヒイロだ。

ページが進むごとに風景写真よりもヒイロの写真のほうが増えていく。
それにはっと気がついて、再び自然と顔が緩んだ。

出会った頃より、一緒に暮らし始めた頃より、どんどん、どんどん、ヒイロの表情が豊かになっていく。

それは二人の距離が近づいたと言うことなのだろうか?
俺と一緒にいることで、ヒイロは素直な表情にするようになったというのだろうか?

だとしたら…。

それが本当に嬉しい。
恥ずかしいけれども。

「たまんねぇな。」

ははっと笑って、ぱたんとアルバムを閉じて。
なんだか胸がわくわく、どきどきしてきて、大声で叫びだしたい気分になる。
ベットに寝転んだまま、ばたばたと足をばたつかせて、ぼふんっと枕に顔を押し付けた。

「う〜〜〜〜!!!」

大声で叫べない分、余計に顔が緩む。

「やっべぇって!!」

ばたばたと騒いでいたら、がちゃっと音を立てて寝室のドアが開いた。

「何を騒いでいる?」
「あ、ヒイロ。おかえりー。」

俺の手元にあるアルバムをちらりとみて、ヒイロは軽くため息をついた。

「お前はいつも煩いな。」
「なんだそりゃ。」

俺の言葉にヒイロが微笑する。
その表情も最近よく見せるもので。
前まではこんな簡単にこの表情を見せるやつじゃなかったから、こんな表情を見るたびに嬉しくて写真におさめて。

「アルバムか。」
「んーそう。俺とヒイロのアイノキセキv」
「バカが。」

ぱこんっと頭を軽くたたかれて、それでもなんだか顔が笑ってしまって。
なんでこんなに嬉しくて、楽しいのかわからない。

でも楽しいのは楽しいんだからしょうがない。

俺の寝転ぶベットに近寄ったヒイロの手をとって、引き寄せて。
たまには俺から誘おうか。

笑う口元に、ヒイロの唇が降ってきた。





+++あとがき

『キセキ』がカタカナだったので
「奇跡」ではなく、「軌跡」でとらえてみました。

そしたらそしたで、デュオは頭に花が咲いてる状態に(笑)
久しぶりのイチニ〜v

2004/07 天野まこと



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