+++ お題17:君は誰





しんっと静まり返った部屋。
見渡せば生活感溢れるその部屋。
いつもとかわらない静けさなのに、いつもとどこか違っていた。

いつもいつも、この部屋で聞こえるのはテレビの音とかラジオの音とか。
二人で一緒にいても、特に会話をしたりはしないけれど。
ふっと顔を上げた時、そこに、アイツがいる。
ただ本を読んでいたり、パソコンに向かっていたり。
別に何をしていると言うわけではないけれど、顔を上げれば絶対ソコにいるのだ。

それがいない。

だけ。

二人の休みがかさなることは少ない。
あえて合わせるとすれば、フリーカメラマンであるデュオの方が。
リリーナの護衛をしているヒイロの休みに合わせるだけ。
特に仕事も無いから。という、今回みたいな休みは、正直、調子が狂った。

部屋に一人でいてもつまらないし。
二人でいても特に何をするというわけでは無いけれど。
ただ、そこに。
ヒイロがいる。
それだけで、この静かな空間も居心地のいいものとなるのだ。
たとえあまり会話をしなくても。

ふと目が合って、笑って、指を絡めて、どちらともなくキスをして。
いつの間にか肌を重ねて。
そんなことの繰り返しだけれど。

「つまんねぇなァ〜…。」

ぼすんっと大きめのソファに寄りかかって、近くに合ったリモコンを手に取る。
電源ボタンを押せば、ぷちんっと音がしてテレビが付いた。

テレビでは見たことないアナウンサーと、リリーナのニュース。
リリーナが今日は何をしただとか、誰と対談しただとか、そんなもの。
いつも流れる日常茶飯事なニュース。

「………。」

唇を噛み締めた。
にっこりと笑うリリーナの後ろの方。
普段は滅多にうつらないのに。

「………なんか……ヒイロじゃないみてぇ。」

子供達に囲まれて、少し戸惑ったようなヒイロ。
『笑顔』に慣れたのか、少し顔が綻んでいる。
それでもどこかぎこちなくはあるのだけれど。

「お前、俺の前でだけじゃなかったのかよ?笑うのは。」

ぶちんっと電源を強く押してテレビを消す。
再び辺りに静けさが戻って、デュオはリモコンをぽいっと投げ捨てた。

「誰だよ。アイツ。」

ぽすんっとソファに顔を埋めて、唇を尖らせる。
カチコチと時計の針が進む音にぎゅっと瞳を閉じる。

「あー……面白くねぇなァ…。」

はやく時が進まないかな。

はやく帰ってこないかな。

そんな言葉を飲みこんで。
再び大きく溜息をつく。

「早く帰ってこいよーばかヒイロォ〜〜。」

ごろんっとソファの上で寝返りをうって。
作った二つの握り拳を天井に向けた。






+++あとがき

君は誰?

俺のヒイロじゃないの?

そんな感じ。

嫉妬デュオらしいです…。

うちのデュオってヒイロの前じゃ素直じゃないな…。
って…最近気がつきました。

2004/05 天野まこと



→戻る