「そんなにお嬢さんが大切なら、いっそ一緒になっちまえばいい。」 「本気か?」 「本気じゃなきゃ、いわねぇよ。」 俺を射抜くように睨んでいたヒイロの瞳が伏せられて。 小さく溜息をついたヒイロに、一瞬胸がどきりとした。
ちくちくと、胸を刺す罪悪感。 ちくちくと、胸に残る痛み。 「ちくしょ…。」 ずんずんと勢いよく歩いて、腕を振りまわして。 デュオはすんっと鼻を啜った。 『比べる次元が違う。』 わかってるさ。 『リリーナがいなくなったらどうなると思ってるんだ。』 わかってるさ。 リリーナの存在意義も、リリーナの地位も、立場も。 でも。 でも…気にくわなかったんだ。 たまたま、少し、だけ、イライラしていたせいもあって。 ほんの些細なことで口論になった。 最初はどんなことからだったのかなんて、もう覚えていないくらいの、ささないなきっかけだった。 ばかみたいに、噛み付いて。 子供みたいに、聞き分けないこと言って。 自己嫌悪。 ちくちくと胸の痛みがおさまらない。 悪かったと思っても、謝り方なんて知らない。 本当に嫌われたくない人に、嫌われてしまったら、どんな風に謝ればいいと言うのだ。 失いたくない人を、怒らせてしまって、一体どうすればいい? もう手遅れなのかもしれない。 あの、溜息。 呆れたような、そんな、あの溜息が、耳からはなれなかった。 「デュオ!」 「えっ…?」 後ろから腕をひかれる。 ぐいっとひっぱられて、振り返ると息を切らしたヒイロがいて。 それにどきりと心臓が跳ねる。 「休みを貰った。」 「は?」 「だから、休みを貰った。」 「仕事の?平気なのかよ!?」 「お前が一緒に海に行こうって言ったんだろうが。」 「あ…そう…だけど。」 思い出した。 ささいなきっかけ。 口論の元。 海にいきたいとデュオが言って、ヒイロが承諾して。 で明日行くぜ!と意気込む、おでかけの前日に。 ヒイロが休めないと言ったのだ。 ついつい、それでカーッときて子供みたいにばかなことを口走って。 何度か言葉をかわしたあと、爆発したかのように言ってしまった言葉。 『そんなにお嬢さんが大切なら、いっそ一緒になっちまえばいい。』 朝からリリーナのでているのニュースをみていて。 たまにチラっと画面に映るヒイロに、なんだか悔しくて、悲しくて。 イライラしていたのだ。 なんでイライラしたのかはわからないけれど。 なんだかムショウにイライラした。 「忘れる程度だったのか…。」 「あっ、いやっ…違うって。覚えてたぜ。もちろん。」 「あんなに怒るくらいだから、よっぽどいきたかったのかと思ったんだが…。」 「うん。いきたかった。ヒイロと。」 苦笑する。 こりゃあ、口がさけても言えない。 ただの、嫉妬だった。なんて。 「……それと…リリーナがいなくなったらどうなると……って話だが。」 「あ?ああ…、悪ィ。わかってるって。俺と、お嬢さんじゃ比べる次元が違うことぐらい。」 たははっと困ったように笑って。 頭が冷えてくると今更だが……恥ずかしい。 もういい加減この話題からは逃げ出したいくらいで。 「そうだ。違う。俺にとっては、また…別の意味で。」 「は?」 「お前を大切だと思う気持ちの方が、大きい。」 「はっ!?」 思わず声が裏がえった。 ぼんっと音がするんじゃないかと思うくらい、一気に顔が熱くなる。 きっと今の俺の顔は、真っ赤なんだとおもう。 自分でもソレがわかるくらいに熱い。 「おまっ、お前はっ…!!」 「本当だぞ。」 「ばっ…!!あ、あ、あ、お前は本当にっ……!!」 爆弾発言はいつも予測不可能。 いつもいつも不意打ちなヒイロの言葉。 いつまでたっても予測ができない。 「ああああ〜〜もー…。」 へろへろっと座りこんだデュオの前に、ヒイロも座りこむ。 不思議そうな顔をしたヒイロに、デュオはただ唇の端をひくつかせることしかできなくて。 そんなデュオのみつあみを、ヒイロがそっと掴む。 「帰るぞ。」 そしてただただ、一言。 ぽつりと呟いて。 「………おうよ…。」 デュオは再び困ったように笑うと、ヒイロの肩に手を置いて立ち上がった。 +++あとがき お題もそろそろ無理矢理デス。 君は誰?の続きでは無いです。特に…何も考えずにちらちらと。 なんか繋がりありそうですけれど。 2003/06 天野まこと |