「そんなにお嬢さんが大切なら、いっそ一緒になっちまえばいい。」
「本気か?」
「本気じゃなきゃ、いわねぇよ。」

俺を射抜くように睨んでいたヒイロの瞳が伏せられて。
小さく溜息をついたヒイロに、一瞬胸がどきりとした。




 +++ お題25:棘



ちくちくと、胸を刺す罪悪感。

ちくちくと、胸に残る痛み。

「ちくしょ…。」

ずんずんと勢いよく歩いて、腕を振りまわして。
デュオはすんっと鼻を啜った。

『比べる次元が違う。』

わかってるさ。

『リリーナがいなくなったらどうなると思ってるんだ。』

わかってるさ。
リリーナの存在意義も、リリーナの地位も、立場も。
でも。
でも…気にくわなかったんだ。

たまたま、少し、だけ、イライラしていたせいもあって。

ほんの些細なことで口論になった。
最初はどんなことからだったのかなんて、もう覚えていないくらいの、ささないなきっかけだった。

ばかみたいに、噛み付いて。
子供みたいに、聞き分けないこと言って。



自己嫌悪。



ちくちくと胸の痛みがおさまらない。
悪かったと思っても、謝り方なんて知らない。

本当に嫌われたくない人に、嫌われてしまったら、どんな風に謝ればいいと言うのだ。

失いたくない人を、怒らせてしまって、一体どうすればいい?

もう手遅れなのかもしれない。

あの、溜息。

呆れたような、そんな、あの溜息が、耳からはなれなかった。

「デュオ!」
「えっ…?」

後ろから腕をひかれる。
ぐいっとひっぱられて、振り返ると息を切らしたヒイロがいて。
それにどきりと心臓が跳ねる。

「休みを貰った。」
「は?」
「だから、休みを貰った。」
「仕事の?平気なのかよ!?」
「お前が一緒に海に行こうって言ったんだろうが。」
「あ…そう…だけど。」

思い出した。
ささいなきっかけ。
口論の元。

海にいきたいとデュオが言って、ヒイロが承諾して。
で明日行くぜ!と意気込む、おでかけの前日に。
ヒイロが休めないと言ったのだ。
ついつい、それでカーッときて子供みたいにばかなことを口走って。
何度か言葉をかわしたあと、爆発したかのように言ってしまった言葉。

『そんなにお嬢さんが大切なら、いっそ一緒になっちまえばいい。』

朝からリリーナのでているのニュースをみていて。
たまにチラっと画面に映るヒイロに、なんだか悔しくて、悲しくて。
イライラしていたのだ。
なんでイライラしたのかはわからないけれど。
なんだかムショウにイライラした。

「忘れる程度だったのか…。」
「あっ、いやっ…違うって。覚えてたぜ。もちろん。」
「あんなに怒るくらいだから、よっぽどいきたかったのかと思ったんだが…。」
「うん。いきたかった。ヒイロと。」

苦笑する。
こりゃあ、口がさけても言えない。
ただの、嫉妬だった。なんて。

「……それと…リリーナがいなくなったらどうなると……って話だが。」
「あ?ああ…、悪ィ。わかってるって。俺と、お嬢さんじゃ比べる次元が違うことぐらい。」

たははっと困ったように笑って。
頭が冷えてくると今更だが……恥ずかしい。
もういい加減この話題からは逃げ出したいくらいで。

「そうだ。違う。俺にとっては、また…別の意味で。」
「は?」
「お前を大切だと思う気持ちの方が、大きい。」
「はっ!?」

思わず声が裏がえった。
ぼんっと音がするんじゃないかと思うくらい、一気に顔が熱くなる。
きっと今の俺の顔は、真っ赤なんだとおもう。
自分でもソレがわかるくらいに熱い。

「おまっ、お前はっ…!!」
「本当だぞ。」
「ばっ…!!あ、あ、あ、お前は本当にっ……!!」

爆弾発言はいつも予測不可能。

いつもいつも不意打ちなヒイロの言葉。
いつまでたっても予測ができない。

「ああああ〜〜もー…。」

へろへろっと座りこんだデュオの前に、ヒイロも座りこむ。
不思議そうな顔をしたヒイロに、デュオはただ唇の端をひくつかせることしかできなくて。
そんなデュオのみつあみを、ヒイロがそっと掴む。

「帰るぞ。」

そしてただただ、一言。
ぽつりと呟いて。

「………おうよ…。」

デュオは再び困ったように笑うと、ヒイロの肩に手を置いて立ち上がった。





+++あとがき

お題もそろそろ無理矢理デス。
君は誰?の続きでは無いです。特に…何も考えずにちらちらと。
なんか繋がりありそうですけれど。

2003/06 天野まこと



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