+++ お題29:おかえり



ぱたん。と、なるべく音を立てないようにドアをしめて。
スタスタ。と、なるべく音を立てないように短い廊下を歩いて。

部屋のキーをテーブルに投げ捨てる。
カシャンっと音が響いて、しまったと少しだけ唇をかんだ。
電気の消えた部屋。
月明りに照らされたリビング。

キーを置いたテーブルには、今日の夕刊が無造作に置いてあった。
リリーナの記事と写真。その隅に映った自分。
きっと何か、言いたいことがあるのだろう。
その無造作に置かれた新聞が、何かを訴えていた。

ふっと軽く溜息をついて、ネクタイを緩めて。
ぱさりとリビングのソファに投げ捨てる。
コートも脱ぎ捨てて、シャツのボタンも外して。

寝室に繋がる廊下にでると、そのまま寝室へと向かう。

電気の消えた家。
人の気配のしない家。

それでもどこか、生活臭がする。

それがどこか………自分には特別な感じがしたのだ。

home

これが、家。

自分の帰る、場所。

音を立てないように寝室のドアをあける。
部屋の真中にある大きなダブルベットの中心がもこりと盛り上がっていた。
それに何故か、唇の端が緩む。

すーすーと音を立てるデュオ。

気配を消してるつもりはない。
前なら寝室に入っただけで、目をさましていたデュオ。
今はただ。ただ…寝息を漏らすばかりで。

きしっと床が軋む音がする。
それでもデュオの規則正しい寝息はかわらない。

そのままベットの端に腰掛ける。
スースーと聞こえてくる、デュオの心地良い寝息。
静かな空間に響く、心地良いリズム。
それだけで…どこか、心が、穏かになる。

そっと、軽く結わかれたデュオのみつあみを掴んで。
そっとそこに唇を寄せれば、デュオの眉根が僅かに寄せられた。

「ン…。」

起こしてしまったか?と顔を覗き込む。
それでもデュオの大きな瞳は開かれなかった。

「あー…おかえり。ひいろぉ…。」

「デュオ?」

もそもそと身じろぐデュオ。
ヒイロはそっとデュオの肩に手を置いた。
声をかけても、返事はなく。
ただただ聞こえてくるのは、規則正しい寝息のみ。

ふっとヒイロの唇の端が緩む。

デュオの乱れた前髪をかきあげて。
現れた額にそっと、唇を寄せて。

home

きっとここが、自分の帰る場所。
自分の帰る場所。そこにはいつも、こいつがいればいい。
こいつがいるところが、自分の帰る場所。



今までこの言葉を言った相手が、デュオ以外にいただろうか?



「ただいま。」

呟くと、デュオの顔もにへらっと…緩んだ。





+++あとがき

パパおかえりなさいー。
みたいな(笑)

2003/06 天野まこと



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