+++ お題5:雨





パタ パタ パタ

雨が窓に当たる音に気がついて、デュオは読んでいた雑誌から顔を上げた。
まったく気がつかなかったが、窓の外ではいつの間にか雨が降っていて。
どんよりとした雨雲に、それなりの激しさの雨。

「やべっ…。」

慌てて窓に近寄ると、壁にかけてある時計を見る。

「あいつ、傘もってってないんじゃねぇの?」

そろそろヒイロが帰ってくる時間かもしれない。
もともと不規則な生活だから、確かでは無いが。
家を出てからもう数時間が経過している。
一応出張だとかはいっていなかったから、今日中に帰ってくる予定ではあるのだが…ヒイロの仕事が仕事なので、あまりあてにはならない。

「……おじょうさんにかりてくるんならいいんだけど。」

でもリリーナの護衛から帰る途中に雨が降ったのだとしたら?
暫く雨を眺めて、溜息をつく。

「しゃあねぇなぁ…風邪でもひかれたらうつるのは俺だし。」

あいつが風邪を引くかどうかはおいといて。だが。
イスに乱暴にかけてあった上着をとって、羽織るとポケットの中の鍵を手にとる。
チャリっと音がして、その冷たい感触に苦笑した。
玄関に向かって傘を2本、手にとろうとして…一瞬考えこんだ。
俺が迎えにきたなんて知ったら、あいつはどんな顔をするんだろうか?

2本手にとったうちの1本を傘立てにまた戻して。
にへらっと笑う。

「たまにはいいだろ?ヒイロ?」

そのまま傘を1本。

握り占めて。

ガチャンっ…とドアノブを回して――――。

「俺が凍える前に帰ってきてくれよ?頼むから。」

あいつのことだから俺が凍えていたらきっとまた、バカな発言をしそうだ。
扉を押し開いて1歩外に。

「『寒いなら温まれば良い』とか言いそうだな。」

過去にも聞いた覚えのあるセリフを思い出して苦笑する。
そんなことを思い出す俺も俺だけど。

「確かに凍えそうだ。暖めてもらおうか?」

突然聞こえた声に驚いて、その声の方を向けば…ぽたぽたとその漆黒の髪から雨水を滴らせるヒイロがいた。
唇の周りには白い吐息。
みているだけで寒そうだった…ついつい背中がぶるりと震える。

「うわっ…!?ひ、ひいろ??遅かったか…迎えにいくの…。」
「………最初から期待はしていない。」
「……ひでぇな………。」

ぽたっとヒイロから滴り落ちた雨水が、玄関の外の廊下に染みをつくって。
寒さに鼻水を啜るヒイロが、珍しくて思わずバカみたいにみてしまう。
そんな俺の鼻をヒイロはぐいっと摘んだ。

「いてぇっ!!!!!」

しかも冷たい手で。
ううっと泣きそうになる俺に、ヒイロはほんのりと微笑して。

「それよりさっきの返事はどうした?」
「あん?」
「暖めてくれるのか?」
「………寒いんだからはやくはいれって。」

微笑したヒイロに、俺も笑う。
頬がほんのり熱いのは、ばかみたいに正直な俺のせい。





+++あとがき

ばかっぷるばんざーい!!
『雨』情緒あるこのお題を前にして…なぜこんなショートストーリーでもって
バカップルなのか…。

それは私がバカップルスキーだから!!!!!


2004/01 天野まこと



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