+++ お題6:レトロ





「聞こえにくいな。」

ジジ…ジ。

雑音ばかりのラジオ。
そのアンテナをあっちこっちに振りながら、デュオは振りかえった。
そこでは少しばかり不機嫌そうなヒイロの顔。

「どうでもいい。」
「なんで!?だって今日はおじょうの講演の日だぜ?」
「………。」
「あれ?お前仕事は?」

デュオがおじょうと呼ぶのは『リリーナ』ただ一人である。
リリーナの特別護衛をしているヒイロは、リリーナが外に出る時はその護衛の任についていて、こうして家にいることは滅多にない。

「ソレは収録だ。」
「えっ!?ラジオなのに!?ラジオって言ったらお前、生だろっ!?」
「リリーナは忙しいからな。滅多に生はありえない。」
「ふ〜ん。」

今だジジ…と雑音だけのラジオを軽く叩いて。
デュオは唇を尖らせた。
真っ赤な太陽が照りつける、プールサイドのチェアーにどっかりと寄りかかると、デュオはテーブルにおいてあったドリンクのストローを口に咥えた。

「お前は今何をしているのかわかっているのか?」

読んでいた本をパタンと閉じて。
ヒイロが顔を上げる。
それにへ?とした顔をして、デュオはかぶっていた麦藁帽子から顔をのぞかせた。

「冷たいもん飲んでる。」
「………。」
「って違う答えもとめてる?」
「折角の重なったオフに、カトルが用意してくれたプール。」
「そこでこうしてバカンス満喫中。」
「そうだ。なのに仕事の話をするな!」
「ええ〜〜〜。んなこといったってさー。」

ヒイロの言葉にデュオが口を尖らせる。
どうやらさっきからヒイロの不機嫌はそのせいだったらしい。
でも自分だって実はこっそりだけど。
面白く無かったのだ。
だからちょっとつまらなくて、ラジオなんぞをとりだしてみたのだが。

「だってヒイロってば俺を放っておいて本なんか読んでんだもん。」
「お前が近付くと逃げるからだ。」
「うっ…!!」

だってヒイロってば水着なのだ。
いや、もちろん自分も水着なのだが。
それなのにいつもみたいに触れてこようとするから。
それは直接肌と肌が触れて、どうにもこうにも刺激的なのだ。
だからなんとなく…気恥ずかしくて、逃げてしまったのだが…。

「こっちにこい。」
「う〜〜〜。」
「動物か。お前は。」
「わかったってば。」

てくてくてく。

照りつける太陽のせいで熱いプールサイドを、裸足で歩く。
ちぇあーにゆったりと座ったヒイロの前まで来ると、俯いて、麦藁帽子で顔を隠して。
それにヒイロは軽く溜息をついて。

「デュオ。」

デュオの手を取る。
小さく震えるその手に思わず笑みを漏らすと、そのままデュオの腰に手を当てた。
びくりとデュオの肩が震える。

「ヒイロ?」

「こい。」

ぐいっとひっぱられて、すとんっとヒイロの膝の上に座ってしまったデュオ。
デュオの頭から麦藁帽子がぽろりと落ちて、真っ赤な顔がヒイロの前に露になる。

「あわわわ、ひ、ひいろっ?」
「ゆでだこだな。」

ぷっと吹き出したヒイロに、デュオがむーとふくれて。
それに更にヒイロは笑った。

「お前最近表情豊かすぎ。」

こつんっとヒイロの額を指先で押して、デュオは照れくさそうに笑う。
そんなデュオの笑った唇に、ヒイロは自分のソレを近付けた。

触れるか、触れないか。

そのぎりぎりのところで、にやりと。ヒイロの口が動く。

「お前の表情が移った。」
「移るかよ。」

呆れたように呟くデュオの唇を塞いで。
腰にまわした腕に力をこめて。

照りつける太陽。

暑い暑い季節。

直接触れた肌は、燃えるように熱かった。





+++あとがき

レトロ=ラジオ
ってイメージがありまして。
そしてなぜかラジオは炎天下のもとで聞く!!というイメージが…!!
なので夏。

デュオと麦藁帽子。

似合いそうですv

ってかニセモノなのはいつものこと…もういいやって気がしてきました…。


2004/05 天野まこと



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