カンカンカン…。 仕事帰りの少し胸のなかがからっぽ。 そんな気持ちの中、階段を上る自分の足音だけが響いていた。 頭を巡るのは今日の仕事のことだとか、次の仕事の予定だとか。 そして…ひまわりみたいな、太陽みたいな。 そんなアイツの笑顔。 ふっと苦笑する。 毎日、1日、一回はどうしてもアイツの笑顔を思い出してしまう。 特に疲れて帰るこんな時は。 気だるさに軽く溜息をついて。 「遅い!」 突然大きな声が聞こえて、驚いて顔を上げた。 するとそこには大きな瞳を釣上げて、胸の前で腕組みをして。 やけに態度のデカイ男がいた。 長いみつあみを揺らして、鼻息荒く近付いてくる。 「待ちくたびれるだろうがっ!!」 ガンガンガン!! 自分の足音よりもソレはさらに大きな足音。 突然目の前に現れた男に、ふっと…笑った。 なんせ自分がたった今、思い出していた男なのだから。 「デュオ。」 「デュオ。じゃねぇよ!お前遅すぎ!!俺はココで2時間も待ってたんだぞ!?」 いつもながらなんて自分勝手な言い分。 笑いだしたくなった。 ああ…そうなのだ。 嬉しい。 コイツが、ココにいたことが。 怒った顔でもいいのだ。 そこにいてくれれば。 「来るなんてきいてない。」 「お前の驚く顔が見たかったんだよ!」 真っ赤になって怒鳴るデュオに笑う。 もう普通の顔をしているのは無理だ。 楽しくてしょうがない。 愛しくてしょうがない。 理不尽なデュオの言葉。 それさえも愛しくて。 仕事で疲れた身体も、ふっと軽くなる。 「そうか。驚いた。」 「驚いたならもっと驚いた顔しろよ〜つまんねぇ。」 「そうか。」 ぐいっとデュオの腕をひっぱって。 ぐらりと揺れたあいつの身体。 驚いて半開きの唇に、自分の唇を押し当てて。 2ヶ月ぶりのデュオの唇を、軽く舐める。 そうすればアイツの大きな瞳が更に大きく見開かれて。 「ヒヒヒ……。」 「その笑い方は止めた方が良いな。」 「ヒイロ!!」 ぐいっと唇を服の袖で拭うアイツに再び笑う。 そんな自分にデュオは顔を真っ赤にさせて拳を振り上げた。 その拳をひょいっとかわせば、デュオはさらに真っ赤に染まってがむしゃらに俺を殴ろうとしてきて。 そんなヤリトリが…楽しくて仕方無い。 こんなに楽しいと感じたことは―――そう、2ヶ月ぶり。 デュオと知り合ってから、知ったすべての感情。 「隙だらけだ。」 ぶんぶんと空を切る腕を掴んでそのまま自分に抱き寄せる。 随分と冷えたデュオの身体が、さっきのデュオの言葉があながち嘘で無いことを告げて。 「煩いっ!!」 「泊まっていくのか?」 「そうするつもりだったけど、泊まらない。」 「泊まっていくんだろう?」 懐かしいデュオの香に瞳を伏せる。 腕の中のデュオは2ヶ月前とちっともかわっていなくて。 長い長いみつあみをそっと握り締めて、手の中の感触に愛しさを感じた。 「いいけど。何もしねぇ?」 「する。」 「…じゃあ泊まらない。」 困ったように口をつむぐデュオにやっぱり笑いそうになる。 戦友であったデュオ。 友達と恋人の境界線。 そんなもの、とっくに越えた筈だろう? いつまでたってもそれに慣れないデュオ。 それがまたもどかしくもあり、愛しくもあって。 「寒かったのだろう?早く部屋に行くぞ。」 「聞いてんのかよ?人の話。」 「聞いてはいる。」 「『は』かよ…。」 ぐったりと諦めたようなデュオの腕を掴むとしっかりと握り締めて。 ポケットから部屋の鍵を取り出すと、鍵穴にさし込んだ。 こんな気持ちでこの部屋の鍵を空けるのは―――。 そう。 2ヶ月ぶり。 +++あとがき ば…ばかっぷる! そしてヒイロさん!?ヒイロさん!? いや、ヒイロと言う名前をかたるニセモノさん!? 何も言えません…。 同棲前らしいです…。 2004/05 天野まこと |