「特定の人はつくらないんじゃなかったのか?」 「え…?」 朝。 目覚めた横で突然言われて…一瞬意味がわからなくてヒイロの顔を見返してしまう。 朝日がさしこむ眩しいベットの上で、ヒイロはいつものように無表情のままデュオを見ていた。 そのヒイロの視線に僅かに頬を染めて、デュオは俯く。 「お前を見ていると…そんな気がしていた。」 そしてヒイロの言葉に、息を呑んだ。 まさか…ヒイロにそんなコトを…気がつかれているとは思ってなかった。 人のコトなんてどうでもいいみたいだし、自分のコトなんて見ていないとばかり思っていたヒイロが…自分のソレに気が付いていたなんて。 友達は沢山作りたかったけど、特別な人は作りたくなかったから。 だから広く、浅く。 表面上だけでの友達を作って、一線引いて、薄い壁を作って。 ポーカーフェイスで。 笑うのは得意だったから。 「だから…お前は誰でも同じ位好きなのだと…。」 真顔で言うヒイロの言葉。 何気に凄いコトを言っているコトに、ヒイロは気がついていないのか…。 ただ照れると言うことがないだけなのか…。 「あのなぁ〜…ヒイロ。」 ふぅっと大きく溜息をついて、前髪をかきあげて。 真顔のままだし。わかってないし。ワザとなのか、ただ俺に言わせたいだけなのか。 「特定の人ってのは作ろうと思ってつくるもんじゃないの!作りたく無いって思っててもできちゃうものなの!」 「………。」 嫌だよ…コイツ。 超本気でやんの。 デュオの言葉の意味を理解したのか、ヒイロの瞳の色が変わる。 唇の端が僅かに緩んで、瞳を細めて。 「お?」 デュオは初めて見るヒイロのその表情に、ついつい面食らってしまって。 どこか嬉しそうなヒイロ。 なんだかデュオも嬉しくなってきて、調子に乗りたくなってきてしまう。 「お前にだっているだろう?特別な奴が!」 へへんっと笑って、ヒイロをじっと見る。 ヒイロの瞳の色が、揺れて動揺するのがとても楽しくて。 こんなヒイロ、きっと自分しか知らない。 もちろん俺だよな! と。口には出さないけれど、瞳で訴えて。 そんなデュオに、ヒイロはふっと笑うとデュオのおでこをぱちんっと弾く。 「いてぇっ!!」 そして一言。 「任務の邪魔だ。」 楽しそうに言った。 それはいつものヒイロの言葉なのに、いつもの雰囲気ではなくて、どこか暖かくて。 デュオの心がほんのりと温かく染まる。 「それってつまり、任務の邪魔になる程特別ってこと?」 「ばかが。自惚れるな。」 「自惚れもするぜ〜?だってヒイロがいつもと違うから。」 「………お前は幸せものだな。」 「おう!だってヒイロと一緒に寝たからな!」 「煩い。」 「それが恋人に言うセリフか!?」 「………。」 ふっと口許だけで笑ってヒイロが起き上がる。 さらりとシーツが床に落ちて、デュオもむくりと起き上がった。 さっさとベットから降りて、寝間着を脱ぎはじめたヒイロをぼ〜っと見ながら、壁にかかった時計の時間に気が付く。 慌てて自分も着替えなければと…服のボタンに伸ばした手をとめた。 「げっ!!ヒイロ〜〜〜〜!!!」 自分の格好に気がついて、ヒイロをキッと睨みつける。 そんなデュオにヒイロは呆れた様な顔をして、ぱらりと寝間着を脱ぎ捨てる。 そんなヒイロにムッとしながらも、デュオは困ったように自分の着ている制服を見た。 そう…制服。 昨夜飲んで帰ってきて…制服のままヒイロとあのヤリトリをして。 何度か啄ばむような軽いキスを繰り返して、抱きしめ合っているうちにうとうとしてきて…。 お互いの温もりに安心したのか、お互いそのまま寝てしまって…気がついたら朝。 つまりデュオは制服だった訳で。 制服はもちろんシワシワのくちゃくちゃになってしまって…。 「どうすんだよコレ!?しわくちゃじゃねぇかっ!!」 真っ赤になっているデュオを尻目に、ヒイロは机の上のパソコンにちらりと目をやる。 ピカピカと点滅するソレに気がついて、パチッとキーボードを叩いて…。 「ヒイロっ!聞いてんのか!?おい!」 「…もう…必要無いだろう…?」 さっきまでのヤリトリでの声とは違うヒイロの声色に、デュオはドキリとする。 低くて真剣な…ヒイロの声。 がばっと目をヒイロにやれば、制服に着替える筈のヒイロが手にしているのは愛用のタンクトップで。 次にさっとパソコンのモニターに目をやって、がばっとベットから飛び降りる。 寝間着を投げ捨て、駆け寄ると画面に映った文字を目で追って。 「任務か!」 部屋を片付けはじめているヒイロを横目でちらりと見ると、デュオも愛用の服に着替え始める。 そしてふっと…浮んだ質問。 「なぁ…ヒイロ。この戦争が終わって、もしも…もしも俺達ガンダムのパイロットが必要なくなっ…。」 デュオのセリフが途切れる。 ヒイロの突然のキスに遮られた言葉を、デュオはゆっくりと飲みこんで。 目の前にあるヒイロの瞳に映った自分のマヌケ面に、瞳を大きく見開く。 たたでさえどんぐりみたいな大きな瞳をさらに大きくして、耳まで真っ赤に染まって声を失っているデュオ。 あまりにも可愛いデュオの反応に、ヒイロは口許を緩めた。 「ガンダムのパイロットが必要なくなっても、お前自身は必要なくならない。」 「ヒ…。」 「必要なくなる筈がないだろう?」 挑戦的なヒイロの瞳。 デュオははっと我に返ると、自然と緩む口許はそのままににへらっと笑ってヒイロに飛びつく。 突然飛びついて来たデュオに、驚く様子もなくヒイロはそれを受けとめて。 「ヒイロ〜!なんで必要なくなる筈ないんだよ?」 「さぁな…。」 「言えって!」 「………。」 「ズリィ〜。」 へへっと笑うと、デュオは満足そうに微笑んだ。 神様―――。 あんたがいるのを信じたこともないし お願いなんてしたことなかったけど。 初めてあんたに願うよ。 他に何もいらないから 俺からヒイロを奪わないでください。 たとえガンダムのパイロットが必要なくなっても 俺にはヒイロが必要だから。 END あとがき あ……甘っ!?(砂吐き) いや…昔はココまで甘くなかったんですが…! そして途中で暗転〜?とか思ったらただのキス止まりでスミマセン。 次にちゃんと1歩前進しますんで! 今回のお話は、デュオとヒイロが恋人になるまでのお話なんで! 色々な意味での境界線を越えるってことから タイトル『境界線』にしてみました。 最後までお付き合い下さった方、ありがとうございましたv 2003/09 天野まこと |