+++ チョコレート



「……何ソレ?」

テーブルの上に無造作に置かれたその紙袋を、デュオは指差した。
いつものようにリリーナの護衛という仕事から帰ってきたヒイロが、郵便受けの中の新聞と一緒にテーブルに放った紙袋だ。
それはどっからどうみてもただの紙袋とは思えなかった。
と言うか、テーブルに放り投げられたときから、中にあった沢山の小さな箱たちがばらばらと出てきて…。

「貰った。」
「…誰に?」
「リリーナやその周りにいる奴らから。」
「………中は?」
「チョコだろう?今日はバレンタインだ。」
「って…わかっててもらったっていうのかよ!?お前は!?」

たんたんといつものように無表情でいうヒイロに、デュオが怒鳴る。
怒鳴ったところでヒイロの顔色が変わるわけでもない。
それどころか、少し呆れたようにため息をつくものだから、デュオの怒りは益々煽られるだけで…。

「こんなの今までだって貰ってきていただろう?」
「今年は受け取らなくたっていいだろうがっ!?」
「大体お前も毎年どこぞのモデルとかから貰って………。」
「………なんだよ?」

言葉を切るヒイロに、デュオがぎろりと不機嫌そのものの声で睨みつける。

「きていないのか?今年は。」
「きてねぇよ。」

怒っていたデュオの声が、小さくなる。
拗ねたように自分にくるりと背を向けたデュオに、ヒイロは少し困ったようにもう一度ため息をついた。
何にこだわっているのか…は大体わかっている。

独占欲。

結婚してからデュオが見せるようになった嫉妬だ。

今までは内に秘めていただけのそれを、結婚してからデュオは表に出すようになった。
うじうじ考えられて以前のように爆発するまで溜め込んで、ある時突然別れるとか言われるよりはましだが…。

「デュオ。」
「なんだよ。」
「お前は?」
「何が?」
「俺にチョコはないのか?」
「ねぇよ。」
「そうか。」

デュオの言葉に思わず笑みが浮かぶ。
想像通りの言葉に、拗ね方。
こうなると大体デュオは機嫌を直すタイミングを見失ってしまうのが常だから。

ポケットに突っ込んでいた手を取りだして、拗ねて口を尖らせたまま。
自分に背を向けたデュオに後ろから近づく。
近づいてそのまま―――そっと、抱きしめた。

「ヒイロ?」

抱きしめて、するりと手をそのデュオの着ているパーカーのポケットに滑り込ませる。

「お前はこういうイベントが大事なんだろう?」
「へ?」
「俺と過ごす、イベントの一つ一つが。」

突然の抱擁に混乱したように耳まで真っ赤に染まるデュオが、ためらうようにヒイロの腕に手を置いた。
小さく震えるその手。
真っ赤な耳。

その耳に軽く口付けて。

「ヒイロ?」

「俺はちゃんと用意した。」

「え?…俺っ…。」

慌てたデュオのパーカーの。
ポケットの中。

指先に当たる硬い箱。

「ありがとう。デュオ。」

それをそのまま取り出すと、デュオの目の前に持ってくる。
その箱を見たデュオの顔が、更に更に真っ赤になって。

「おっ…お前にじゃねぇよ!!」

照れくさそうに、素直じゃない言葉を言うものだから。

「チョコを貰ってこなかったお前のポケットにあったチョコだ。俺以外の誰にやるつもりだ?デュオ。」

「………。」

真っ赤な顔のまま、デュオは黙ってパーカーのポケットに手を突っ込んだ。
だから思わず笑みがこぼれて。
チョコを持ったままデュオを抱きしめれば、パーカーのポケットの中。
さっきヒイロが置いてきたソレに気がついたのか。

身体を小さく堅くして………デュオが振り返った。

「コレ?」
「俺はちゃんと用意したといっただろう?」

恐る恐るデュオがパーカーのポケットから出した、手のひらの中。

混みまくっていて中々レジにたどりつけなかったチョコ売り場。
なんとか買えた唯一のチョコの箱。






あとがき
バレンタイン売り場でチョコを買うヒイロ(ぷっ…笑)
デュオは絶対用意してたぜ?
結婚してから結構我侭言いまくりなデュオさん。

なんか新婚バカップルだよなー今年のイチニ(遠い目)

2005/01/12 天野まこと



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