+++ ホワイトクリスマス



「クリスマス。聖なる夜…ね。俺たちにはなんて無縁な日なんだか。」

ため息混じりに愚痴れば、モニターの向こう側。
相変わらずの仏頂面で、ヒイロがゆったりと持っていたカップを啜った。
ソレを見てたら自分も温かな飲み物が欲しくなって、飲みかけのココアに手を伸ばす。
既にぬるい部類に入るそれは身体を温めることは無かったけれど。

「忘れてないぜ?3年前。殴られたこと。」
「1回は1回だといったはずだ。お前がそんなに引きずる奴だとは思っていなかったな。」
「わかってたらもっと力こめたっつーの。」
「十分こめていたように思えたが?俺とお前の力の差だろう?」
「…急所狙ってきておいてよく言うよ。あ、お前そのカップの中、何?」

モニター画面じゃカップの中までは見えない。
さっきからヒイロが暖かそうに飲んでいるソレが、無性に気になっていたのだ。
相変わらず、コーヒー、しかもブラックなのだろうか?

「…お前と一緒だ。」
「ありえないだろ。ソレ。甘党じゃないくせに。」
「ココア。」
「なわけねー…って、マジ!?」
「嘘をついてどうする。」
「だから雪が降っているのか!こっちは。」
「こっちもだ。」

嫌味すら通じないらしい。
でも、あのヒイロがココアだって?
自分が飲んでいるのを、いつもいつも『甘いにおいがする』といやそうにしていたヒイロが?
しかも自分のいないところで。だ。

「あー…と、もしかして、寂しい?」
「…バカなことを言うな。」
「……へいへい。すみませんでしたー。」
「お前が飲んでいるんだろうと思って。折角のクリスマスの夜だ。遠くはなれているならせめて一緒の飲み物を。と思―――ー。」

バタン!!

ヒイロの言葉に慌てた俺は、思わずノートパソコンを電源も切らずに閉じてしまった。
パソコンを掴む手が、震える――――。
勝手に電源を切られたのだ。
向こうではヒイロの怒り指数が上がっているだろう。
それとも切られる直前。
見えた俺の顔に噴出しているかもしれない。

だって自分でもわかるくらいに、耳まで熱い。
心臓なんて口から飛び出しそうだ。

ピピッ…。

ポケットの中、僅かな振動と共に聞こえてきた機械音。
手を伸ばしてソレを見れば、携帯電話にメールが1通。


『Merry christmas!』


後者だ―――――。


笑いながらヒイロがこのメールを打ったのが、容易に想像付く。
『俺たちにはなんて無縁な』なんていいながら、自分がこの日をヒイロと過ごしたがっていたこと、ヒイロにはバレバレだったらしい。
仕事でいないとヒイロが告げたあの日に、『関係ねぇよ。クリスマスなんて。』なんて言った自分の、表情は完璧な筈だったのに。

「ほんっと。かなわねぇ。」

はやく帰って来い。
雪の降る夜。ホワイトクリスマス。
教会で育ちながら、そのイベントに参加したことは無かった。
いつも部屋の隅で膝を抱えてた。
楽しそうに笑いながらやってくる家族連れから、目を逸らして。
冷たくて寒いホワイトクリスマスを、楽しいと思ったことは一度も無かったけれど。
家族がいる。特別な人がいる。

それだけで、この日が特別な意味を持つなんて。

ケーキを買おう。
チキンも。ピザも焼こうか。
暖かなスープと、お前の好きな苦いコーヒーもちゃんと豆から挽いておくから。

プレゼントは何がいい?






2005/12/24 天野まこと
10分くらいで思いついたままに書いた物です。
しかも出かける10分前に(笑)
帰ってきて読み返したら相変わらずの誤字脱字に苦笑。
なおしましたが他にもあったら教えてください…(そんなのばっかり)

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