+++ 雨上がり



ぽたりぽたり。
雨が止んで、真っ青な青空が雲間から覗き込む。
それを窓から身体を乗り出して見上げると、デュオはにへらっと笑った。
いつもの、ひまわりを連想させる笑顔で。

「俺の勝ち〜♪」
「………。」
「さーて。ヒイロさん。どこに行こうか?」

デュオの言葉にヒイロはつまらなそうに眉を寄せた。
読んでいた本を投げるように机の上に置くと、ため息を一つ零す。
そう。勝手にデュオがはじめたとはいえ、賭けをした。
昨夜から延々と続くかとも思われた土砂降りの雨。
天気予報でも今日いっぱいは雨の予報。
だから部屋で本を読んでいると、土砂降りの雨に濡れたデュオが帰ってきた。
だぼだぼの大きなジャケットの内側に、仕事道具を大事そうに抱え込んで走って帰ってきたデュオが、雨に濡れるみつあみを絞りながら笑ったのだ。

『な?ヒイロ。雨止んだらどっかいこうぜ?』

窓の外ではザーザーの雨。
どうみたって病む気配はない。
だからヒイロは本を読むのをやめずに言った。

『止まないだろう。今日の雨は。』

と。そしたらデュオは不思議そうな顔をして、次に笑っていったのだ。

『絶対止むから。』

と。
ありえない。どう考えても止む気配はない。
濡れたみつあみをタオルで拭いて、仕事道具をテーブルの上において。
デュオは笑った。

『じゃあ、止んだらどっか行こうな?』
『………わかった。そのかわり止まなかったら今日の夕飯の当番はお前。』
『えー!?今日はお前の当番じゃん!』
『なら出かけない。俺は今日中にコレを読んでしまわないといけないんでな。』

ヒイロの言葉にデュオはむーっと頬を膨らませて。
小さくわかったと呟くと、窓の外をにらみつけた。

『ぜってー止むからな。みてろよ?』

自信満々にそう言い放つデュオに、ため息をついたのが数時間前。





窓の外を見れば、どうみてもさっきまでの雨が止んでいた。
オマケに青空。一体全体なんだというんだ。さっきの雨と、今日の天気予報は。
どうしても読んでしまいたかったこの本は、読み始めてからすでに1週間以上がたっている。
いつも仕事やら、デュオに邪魔されてやらで読めないソレは、今度リリーナに会ったときに返す約束をしていた。
少し困ったな。と思いつつも、一度は約束した手前出かけることを拒否できない。

嬉しそうにカメラを用意して出かける準備をしているデュオのその笑顔をみたら、益々拒否できるわけなんてなくて。
よくよく考えたらこの1週間。本が読めないのはデュオの笑顔のせいだ。
なんとなく頭が痛くなってきて、それでもやっぱり唇の端は緩んで。

「ドコに行く気だ?」
「海。」
「………荒れてるだろう………。」
「だろうなぁ〜。あ。ヒイロは本もってっていいから。」
「………撮影どころじゃないと思うが?」
「いーんだよ。今日は海って決めてたんだから。撮影は二の次。」
「………。」

いくら青空とはいえ、さっきまでのあの大雨では海は荒れ狂っているだろう。
近づくのも危険かもしれない。
そんなときに撮影も何もあったモンじゃないと思うが。

ヒイロは何度目かのため息をつくと、さっさと支度を始めた。
デュオは一度言い出したら聞かないことも知っていたし。それは自分に対してだけの些細なわがままだとも知っていたし。そして、自分はその我侭を許してしまうくらい、デュオには甘いのだと今では既に自分でも認めてしまっていたのだから。

「…だって今日はさ、記念日じゃん?」
「記念日?」
「俺がお前の手をとった日。」

はっ…と思い出した。
静かな静かな海。
その海を見ながら。

他に行くところがないのなら、自分の隣にいろと。

自分がデュオに手を差し伸べた日。

冬から春に変わる、あの季節。

「だから晴れるって知ってたし、海に行きたかったし。」

カメラの入った大きな鞄を抱えて、デュオが立ち上がる。
じゃりっと家のキーを振り回して、デュオはまた、にへらっと笑った。

「知ってた?俺たち二人とも晴れ男なんだぜ?」

笑うデュオに手を差し出して。
少し戸惑うように頬を染めたデュオが、そっと。
指先を俺の指先に絡めた。





あとがき
記念日だけど、二人が同棲はじめたのは12月12日ではないです(苦笑)
だってホラ、戦争後なんでどうしてもそうなっちゃうので。

12月12日
世界で一番素敵な日ですよね!
なんだか無駄に長くなった気もしますが、一応更新できてよかったですv
誤字脱字があったら、いつものことですが笑って許してください…
そしてこっそり教えてください(笑)

2004/12/12 天野まこと



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