「そいつは俺のだ。」 チャキっと金属の音が辺りに響いて、男の構えた銃が自分達に向けられる。 ただでさえ薄暗い部屋の中で、男の瞳は鋭く、それでいて静かに光っていて。 「離してもらおうか。」 冷たいその声に、身体が震えた。
「え〜と…ちょっと待ってくれませんかね?」 トンっと肩が後ろの壁に当たったのがわかった。 少し苦笑いした口の端が震える。 顔の横に手をたてられて、壁際に追いつめられて。 逃げ様がないその状況に、デュオはただただ苦笑いするしかなかった。 「なんで?好きなんだろう?こういうの。」 「どこをどう勘違いしてるのか、よくわかんないんですけれど。」 「いつも男好きそうな顔で、俺のこと、見てたでしょ?」 「え〜と。そんなつもりはまったく、全然、なかったんですけど。」 ニヤニヤ目の前で笑う男がキモチワルイ。 いい加減この勘違い野郎を蹴り飛ばしたかったが、いかんせん。 今は善良な(?)1市民。 ただのフリーカメラマン。 目の前の相手はお得意様のマスコミ関係者様で、ここでコイツを蹴りとばしてしまうと後々面倒なことになる。 暫く悩んだ後、デュオは軽く溜息をついた。 「なぁ?デュオ。」 「いい加減にしてくれませんかね?」 「悪くはしないさ。」 悪くも何も、すでに気持ちが悪い。 するっと頬に男の指が触れて、頤を掴まれる。 「この前キスを拒まなかった。」 「あんなのはただの挨拶だろうが!!」 「あれ?そっちが地?」 「そこを退けって。」 「嫌だね。」 男の顔が近付く。 デュオは再び溜息をついた。 そうそう何度も唇を奪われてやる気はさらさらない。 この前は、まぁ頬くらい挨拶みたいなもんだしいっか。とは思ったけれど、大人しくされたらされたで、後々気持ちが悪かった。 やっぱり好きでも無い野郎とするのなんて、気持ち悪い以外のなにものでもないし。 頬であれだけ気持ち悪かったのだ。 唇になんてされたら吐きそうになるかもしれない。 いや、それ以前に、さっきから。 頭の中でチラチラと浮かぶ、ヒイロの顔。 あの日帰ってからヒイロにそのことを話したら、無表情のヒイロの眉が、僅かに動いた。 それだけで楽しくもあったけれど、やっぱりヒイロもあまりいい気分がしなかったらしい。 挨拶みたいなもんだし、と軽く受けてしまったこともあって、胸に僅かに残った罪悪感。 もうあんな罪悪感を感じるのも嫌だ。 「デュオ。」 ふっと男の息が顔にかかる。 気持ちが悪い。 「仕方ねぇなぁ…。」 ぽつりとデュオは呟く。 本当はあんまり、やりたくなかったんだけど。 「退けよ。」 「デュ…。」 俯いていた顔を、上げる。 目の前の男の顔が、驚いたような表情に変化した。 「退け。」 低い自分の声が、辺りに響いた。 昔の自分と同じ、瞳の、自分が、そこにはいるはずで。 こんな風に、殺意をこめた瞳を人に向けることは、もうしないつもりだったけれど。 「っ………!」 男の顔が、変化する。 ひきつった唇に、さっと青くなる顔。 ああ…こんな顔、久しぶりに見たな。 と。 その時。 キイ…っと小さく音がして、アトリエの扉があく。 真っ黒なコートに身を包んだ男が、扉の入口にたっていた。 「ヒイロっ!?」 現れたヒイロに、驚いて声を上げる。 死神の瞳をした自分は、その時、瞬時に消えてしまったんだと思う。 「お前どうしてここにっ…。」 そんな俺の声はそのまま無視して。 ヒイロはコートの内側から、愛用の銃を取り出した。 「そいつは俺のだ。」 チャキっと金属の音が辺りに響いて、男の構えた銃が自分達に向けられる。 薄暗い部屋の中で、ヒイロの冷たく低い声が響いた。 「離してもらおうか。」 向けられた瞳に、背中がゾクリと。 ――――――粟立った。 「あーもーどうすんだよ。あれ、俺のお得意さんだぜ?」 「知るか。あんな奴と取引するな。」 こつこつこつ。 二人の足跡が重なって辺りに響く。 「いくらなんでも銃構えるか!?普通!?」 怒りながらも顔が自然と緩んでしまう。 隣を歩くヒイロの耳が、僅かにだけれども紅くて、それがまたおかしくて。 「煩い。どこか…触られたか?」 「…んー別に…んなコトはなかったんだけど…よ。」 「そうか。」 ほっと一息付くヒイロに、デュオは笑った。 心臓はどきどきして、自然と足どりは軽やかになって、何故か楽しくて楽しくて。 「何?心配したワケ?ヒイロ。」 「………お前がこの前の奴とまた会うと言うから、向かえにきただけだ。」 「ふ〜ん………?」 デュオの方をみもしないでさっさと歩くヒイロに、デュオはにへらっと笑って。 「はやく帰るぞ。」 「おう。」 ポケットに手をつっこんだヒイロのポケットに、自分も手を突っ込む。 「狭い。」 「いいじゃねぇかよ。」 狭いポケットの中で、ヒイロの手を掴んで。 緩む顔はそのまま、いつもみたいににへらっと笑って。 「お前以外に触らせる気は、さらさらねぇから。心配すんなって。」 「………。」 ヒイロの手を掴んだデュオの手を、今度はヒイロが握り締め返す。 それにデュオはやっぱりにへらっと笑って。 無口なヒイロの横顔を覗き込むと、ヒイロの耳が僅かに紅くて。 デュオはやっぱり笑わずにいられなかった。 あとがき 前回の続き。 というか前回コレが書きたかったのに、前置きでおわっちゃったんです。 ヒイロに言わせたかったのにかけなかったセリフはコレ 「お前は俺のだ。違うか?」 かきたかったなぁ…。 タイトルが浮かばなかったので、全然危機一髪じゃないんですけれど これで…スミマセン。 2004/06 天野まこと |