+++ かき氷



しゃりしゃりしゃり。

ヒイロがレバーを回せば、そのカキ氷機の下から削れた氷がきらきらと落ちてきて。
デュオはそれをじっとみつめていた。
みているだけで涼しくなるような、そんな感じがした。

「ヒイローはやくー。」

けらけらと笑いながらデュオが急かせば、ヒイロは怪訝そうに眉を寄せて腕を動かすスピードを上げる。とたんに山のようになる氷の山が、下に設置した器から溢れ落ちた。

「わ、わ、わ。ヒイロ!ストップ!!ストップー!!」

慌ててデュオが硝子の器を取り出す。
しゃりっと氷が音を立てて崩れた。

「うおっ!冷てぇっ!!」

手に取った器の冷たさに、デュオが笑う。
そんなデュオにヒイロも唇の端を持ち上げて、用意していた何個かのシロップをデュオに手渡した。
赤、青、黄色。
イロトリドリのシロップを見ながら、デュオは軽く首をかしげる。

「ヒイロは何色がいい??」
「青。」
「ラジャー!ほら。」

山盛りの氷に青いシロップをかけて、デュオはそれをヒイロに手渡した。
その器を受け取って、ヒイロはデュオの顔をじっと見る。
まだ出来上がったカキ氷は1つだ。

「お前の分の器は?」
「俺?俺はそれ。」

デュオがにっこりと指差すのは、先ほどヒイロにデュオが手渡した器だ。
だんだんとデュオの言わんとすることがわかって、ヒイロは軽くため息をついた。
相変わらずバカなことを考え付く。

「暑苦しい…。」
「うわっ…ソレが愛しの恋人に言うセリフかね?ヒイロさん。」
「…ほら。」

スプーンですくって、それをデュオにもっていってやれば、嬉しそうに笑うデュオ。
にっこりと笑って、ぱくっと口に含んで。
舌先に感じたその冷たさに満面の笑みを浮かべた。

「冷て〜〜!美味い!!キモチイー!!」
「そうか。」

そしてヒイロも一口、それを口に含んで。
暑くて暑くて。ただそこに座っているだけなのに、汗がだらだらと流れ出てくるような暑さ。
そんな暑い日に、口に含んだかき氷。
舌の上で瞬時に溶けて、甘いシロップの味が薄まって。
美味しかった。

デュオが商店街のくじ引きで当ててきたカキ氷機。
それは暫く押入れの奥にしまわれたままだったのだけれども。
あまりにも暑い日々に、暑い暑いとだらだらしていたデュオが、ふっと思い出したのかそれをごそごそと取り出してきた。
そしてヒイロに氷とシロップを買ってこいというと、ご機嫌な顔つきでカキ氷機を洗っていた。
最初はその自分勝手なデュオに僅かながら苛立ちを覚えたヒイロだったが…目の前で美味しそうにかき氷を口に運ぶデュオの顔を見ていたら、そんな苛立ちなんでどこかに言ってしまった。

満面の笑みで、嬉しそうに楽しそうに食べるデュオ。
デュオと何かを食べるのは楽しい。
いつもいつも美味しそうに食べるから。
今回はまた特別、美味しそうに食べるデュオに、こっちまで幸せになってくる。
暑い暑いと思っていたけれど、それもまたいいかもしれない。

「ヒイロって青好きなの?」

デュオが向けてくるスプーンを一瞬戸惑ったがそのまま口に含んでやると、デュオは心底驚いたような顔をした。
あえて何も言ってはこなかったけれど。
舌の上で広がる甘くて冷たい液体。

「好きだ。」
「へぇ〜初耳。」
「お前の瞳の色だからな。」
「………あ〜〜〜あっちぃ〜〜〜〜。」

Tシャツの胸元を広げるとぱたぱたとうちわで扇いで。
ヒイロから視線を逸らしたデュオから、ヒイロはカキ氷を取り上げた。
それにデュオは「あっ…」と小さく声を漏らして、しまったといった風な顔をして。

「聞かなかったことにするな。」
「じゃあ、どんな反応をしろって言うんだよ!!お前は!!あーもー恥ずかしい奴。」

先ほどよりも真っ赤な顔でデュオが声を上げる。
それは暑いからじゃなくて、ヒイロのいった言葉のせいで。
自分から二人で一つのカキ氷を食べようとか、スプーンで掬って食べさせあおうとか考えるくせに、いざヒイロが口にしたりすれば照れて逃げる。
おそらくヒイロが困ったり照れたりする顔がみたいのだろうが、今までの経験からしてソレはありえないことだと…いまだにわかっていないのか。
それともそういうヒイロの反応を待っているのか…。そのあたりがいまいちまだよくわからない。
ただの照れなのかもしれないが。
ぱたぱたと困ったようにうちわを動かすデュオの手首を掴むと、ヒイロはじっと…デュオの顔を見つめた。
それにデュオが戸惑う。

「な…なんだよ?」
「舌が青い。唇も。」
「お前もな。ヒイロ。シロップの色が移ったんだろ。」

話がそれたことにほっとしたのか、デュオの声のトーンが元に戻る。
さっきまでの少し焦ったような、高いトーンではなくなっていた。
だからヒイロはそのまま、デュオの手首を掴む手に力を込めると。
そのままデュオを引き寄せる。

がたんっと…ヒイロの座っていた椅子が倒れて、ヒイロはテーブルに身を乗り出すと。
向かい側に座ったデュオの唇に、自分の唇を押し当てた。



「んっ…!?」



驚いたデュオの手から、うちわが落ちて。
かたんっと音が響いて、デュオの大きな大きな瞳が見開かれる。
冷たかった口内に、いつもと違う変な感触。
それは冷たい舌だったのに、口内をうごめいているうちにいつもと同じ暖かさを取り戻していた。

「ひ、ひいろっ…!?」

唇が離れて、デュオの口から甲高い声が漏れる。
あわあわと慌てているデュオに微笑して、ヒイロは再び椅子を元に戻すと座った。

「シロップが移ったというから、甘いのかと思ったんだがな。」
「ばばばばば、ばかかお前は!!」
「もともとお前の舌は甘いから、違いがわからなかった。」
「………氷ぶっかけてもいい?」
「かけかえすがそれでもよければ。」

ひょうひょうと話すヒイロに、真っ赤になって震えているデュオが適うわけもなく。
ふるふると震えるデュオに、ヒイロは溶けかけているカキ氷をスプーンで掬うと差し出した。





あとがき
残暑見舞い申し上げます。
夏休みだからでしょうか?
8月にはいってから今までよりも沢山の方にきていただけているのに
更新ができていなくてごめんなさい。

初めてさんも、何度か来て下さっている方も、当サイトに来てくださってありがとうございます。
この小説は一応残暑見舞いフリー小説です。
お持ち帰り・転載の許可や確認は特に必要ありません〜ご自由にどうぞ!
でも著作権は放棄していませんのでよろしくお願いします。

暑い夏に涼しくなってもらいたくて贈る残暑見舞い…
甘くて暑くてスミマセン…。


2004/08 天野まこと



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