デュオは寝るときもみつあみのままだったり、後で束ねていたりする。 昔その理由を聞いたら寝ているときに剥き出しの腕や顔に張り付くのがうっとおしくて嫌いだからだと言っていた。 ならば切ればいいと言った俺に、デュオは少し困ったように笑って。 『切ってほしい?』 と聞くから。 『長くても短くてもどちらでもいい。』 と答えた。 別にどちらでもいいのは正直な気持ちだ。 デュオの髪が長かろうが、短かろうがデュオはデュオだしかわらないから。 だがデュオを抱いているときにあいつのきつく編んだみつあみが緩むのをみることや、前を歩いていくあいつのみつあみを握るのは好きだったが。 だが短くなったからと言ってソレが嫌だというわけではない。 それに俺がどうこう言ってもしょうがないし。 朝目が覚めたデュオは真っ先に寝ていて緩んだ髪を解く。 絡まってうっとおしいらしい。 一度結わいているゴムを取って、簡単に手櫛で梳くとまた結わく。 最近はみつあみよりもただ一つに束ねることが多くて、ソレが少し疑問だった。 「最近みつあみにはしないのか?」 「アレ?ヒイロ俺はみつあみのほうが好み?」 にへらっと笑ってデュオが振り返る。 前まではデュオがくるりと振り返ると、あのみつあみが宙を舞ったのだが。 ただ一つに結わいただけではそれは重力に抗うこともない。 さらりと動くだけ。 「いや…どちらでもいい。」 「ヒイロって結構どっちでもいいって多いよな。」 「お前はお前だからな。」 「らしい答えをサンキュウな。」 少し怒ったように唇を尖らせて。 デュオは一度髪を解いた。 「そんなにヒイロがお望みならみつあみでもいいんだけど。」 「めんどくさいのか。」 一番デュオらしい答えを選んでみたが、俺の言葉にアイツは苦笑しただけだった。 丁寧に丁寧に。 目を伏せながらひとあみひとあみ。 綺麗に編んでいく。 それはまるで神聖な儀式のようで、俺は朝ごはんを用意する手を止めてソレをじっとみていた。 こいつのことだから鼻歌でも歌いながら編んでいくのかと思いきや、みつあみを結っているときは驚くほど静かだった。 最後のひとあみ。 きゅっと結んで。 緩く伏せられていた瞳が、ゆっくりと開く―――。 そのデュオの瞳に驚いて息を呑んだ。 閉じる前とうってかわるような、その眼差し。 鋭い光を宿したソレに、息を呑む。 「コレは俺の精神統一なんだよな。だから―――疲れる。」 「精神統一…?」 「任務の前とか。デュオ・マックスウエルの仮面を被る前とか。」 ははっと笑って、いつものデュオに戻る。 そのデュオの笑顔に一瞬流されそうになったが、俺はデュオの言葉を聞き逃しはしなかった。 「仮面を被る?」 「……てめぇが言ったんだろ。笑うな。って。」 「………。」 「いつもいつも、作られた笑顔をするなって。」 「………。」 「俺のツクリモノの笑顔。おれ自身だって気がついていなかったんだぜ?勝手に仮面を外しやがって。くそっ。あん時は悔しかったなぁ…。」 確かに言ったが。 デュオの笑顔はわからない。 本当の笑顔でない気がしていたのだ。自分には。 それに気がついたら、こいつの本当の笑顔が見たくなった。 それはまだ二人一緒に住む前。 二人でとある学園に潜入していたときのことだった。 「ひとあみ、ひとあみ。編んでいくうちに心が落ち着くんだ、冷えるって言うのかな。そんな感じ。今は別にそうやって心を落ち着かせる必要もないから、たまに気が向いたときしか編まねぇけど。仕事のときとかぐらいしか。」 ああ…だから仕事がオフのときに一つに結わいているのか。と納得した。 暫く仕事はオフだと言っていたのを思い出す。 そこでもう一つ、思い出したこと。 『俺が切れといったら切るのか。』 『まだその時期じゃねぇから。』 有無を言わさない強い瞳。 いつものように軽い口調じゃない。 はっきりと拒絶の言葉を言われて、別にそれでもかまわないから何も言わなかった。 時期? なんの時期だ。 「デュオ。お前のその髪は――――。」 「戒め。俺が初めて人を殺めた時から伸ばしてる。コレで満足?」 びくりとした。 体が僅かに反応して、本能で身体が動く。 にっこりと笑った、デュオの口元。 でも瞳は笑ってない。 触れてはいけない、デュオの傷。 もうそれ以上聞くことを拒むような、壁を感じた。 デュオの鋭い瞳が、一瞬で消える。 そして困ったように笑うと、ぴんっとみつあみの先を指で弾いた。 「わりぃ。」 「………いや…すまなかった。」 「てめぇがあやまんなよ。」 ははっとデュオが笑って、空気が僅かに戻る。 張り詰められた空気の名残が、肌にピリピリと痛い。 一緒に暮らし始めてもう1年。 まだ知らないデュオの過去がある。 気になっているわけではなかったし、そんなに知りたいと思ったこともなかったけれども。 昔俺がデュオに『隠し事をしているのか?』と聞いたとき。 こいつは笑っていった。 『俺はしてるよ?お前に嫌われたくないから。』 と。 『知られたら嫌われるから。』 と。 あの時のデュオの顔を思い出す。 なんだか胸がムカッとした。 もやもやとする胸の奥。 「一生待つと言った。」 「え?何?ヒイロ。」 小さな俺の呟きに、デュオが聞きかえす。 そのデュオの言葉を無視して、俺はそのまま朝食をテーブルの上に置いた。 ちりちり。ちりちり。 胸の奥を焦がす何か。 あとがき 「秘めごと」では余裕満々なヒイロだったのになぁ…。 ちょっと余裕がなくなってきていますよ…どうしちゃったの!? そして「みつあみ」も本館2周年アンケートでいただいたお題の一つです。 やっぱり甘くないのは今の私の心境のせいなのか(苦笑) すいません…。 2004/09/19 天野まこと |