「なーなーヒバリィ〜。今度の件、一緒に組もうぜ?」
「君もしつこいね。」
情事の後とは思えないくらいに素っ気無い相手の態度に、山本は小さくため息をついた。
いつものことと言えばいつものことなのだが、さっきまで腕の中でしおらしくなっていた姿と180度違うその態度に少しだけ寂しくなる。
「たまにはいいじゃん。滅多に俺らがくまねーのって、ヒバリが工作してるんだろ?」
「………約束。」
「え?」
「忘れたんならいい。」
「いつしたやつ?」
自分にまとわりついていた腕の中からするりとぬけでると、雲雀はベットからゆっくりと降りた。
床に散らばった脱ぎ捨ててしまった服を一枚一枚拾って、身体を屈めるたびに眉根を寄せる。
中でだすなと散々言ったのに、ベットの中でう〜んう〜んと唸る相手はそれを聞いたことがなかった。
少し動いただけでも中にだされたそれが溢れ出てきそうで気持ちが悪いったらありゃしない。それにださないことには明日の仕事に支障が出てしまう。
脱ぎ捨てた服を片手にシャワールームへと向かえば、それを眺めていた山本がちょっと待ってと追いかけてくる。
「何?まだなにか用?」
「俺が掻きだしてやるよ?最後まで責任も―――ガッ…!」
開きかけた扉を後からパタンと閉じられて、なんとも阿呆なことを言いながら後から抱きすくめてきた山本の顎に思い切り肘を突き上げる。
かわすこともしないでヒットした山本が顔をのけぞらして、後ろから抱きしめていた手をするりと離したので、雲雀はそのままシャワールームへ一人ではいった。
シャワーのコックをひねれば、冷たい水が勢いよく上から降り注ぐ。
「ヒバリィ〜〜〜。」
扉の向こうでなんともなさけない声を出しているこの男と、こんな関係になってからもう10年以上のときがたった。
自分で自分に呆れる。こんなにもウザイ男と関係を持つなんて。
しかも10年も続けている。
恋だとか愛だとか、そういう感情を自分が抱いているのかもわからない。
ただ…。
『なァ…ヒバリ。俺の目の届かないところでだけは死なないでくれ。』
普段のおちゃらけたあの男の瞳とは全然違う…真剣な眼差しで。
雲雀の腹にある弾痕を手当てしながら、静かに祈るように、願うように言われた言葉。
心が震えた。
わからない。どうしてなのかわからないけれど。
『頼むから。』
懇願するその瞳を見ていたら、何故だか無性に心が震えて。
あの時だけだ。感情…なんていう名前の感情なのかはわからないけれど。人を殴るときの昂ぶりとも違う。燃えるような感情の奔流が身体中をめぐったのは。
『君も約束してくれるなら約束してあげる。』
『何を?』
『君こそ…僕のいないところで死んだりしたら、赦さない―――。』
そういった雲雀の言葉に、山本は一瞬大きく瞳を見開いて…次の瞬間、泣きそうな瞳で笑ったのだ。
『雲雀の口からそんな言葉が出るなんてな…。』
『君を殺すのは僕って決めてるんだ。』
『もう何回も雲雀にはヤラレテルよ…。』
その時交わした重ねるだけの口付けは、今までしたどのキスよりも気持ちが良かったのを覚えている。
「ヒバリ?」
どん。どん。ガラスのドアが叩かれて、はっとヒバリは我に返った。
「煩いよ。」
「俺もいれてよ。」
「勝手に入れば。」
ほんとにどうかしてる。
鍵なんて最初からかけていない。
だから簡単に開く扉。なのに山本はいつも自分に了承を得てから行動に移すのだ。
それがわかってて…自分は―――。

ほんとうにどうかしている。
ヤラレテイルのは…きっと自分のほうなのだ。








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