「君が…。」
今にもなきそうな顔をした獄寺君が、不思議そうな瞳で俺を見てくる。
それだけで、こっちまで泣きそうな気持ちになってしまって。
震えるこぶしをぎゅっと握り締めながら、詰まったような喉のおくでこくりとつばを飲み込んだ。
「君が思っているより。」
声が震える。拳が震える。
目頭が熱くなってきて、目の前の獄寺君がゆらりとゆれるのを、ぱしぱしとまばたきを繰り返すことでなんとかこらえて。
「もっと、ずっと…俺は、君が、好きなんだ。」
こんなにも胸が苦しくて。
こんなにもみっともなくて。
こんなにも、切ないのに。
「十代目?」
頬を真っ赤に染めて、興奮したようにつばを飲み込む獄寺君の服の裾をぎゅっと掴んだ。

君が俺に近づきたいと、背伸びをするように無理をしているのを見るたびに胸が苦しいんだ。
君の声が少しずつ低くなっていっていることに気がついたとき、その成長が嬉しいような、少し寂しいような、そんな不思議な感情が胸にわきあがったんだ。
俺の知らない世界で、君が俺の知らない人たちといるのを見たとき、胸に湧き上がった醜い感情がとても嫌だった。

「俺を、おいていかないで。」
「じゅう…だい…め?」

君が俺に近づきたいと、精一杯つま先立ちしてくれているのはわかってる。
でも、それはとても怖い。
君は俺に近づこうとして、俺の知らない世界に飛び込んで、俺の知らない君になろうとしているような気がして、それが怖い。

あの、俺が中学1年生で。
君が小学4年生で。

あの二人であったままの時でいたい。

初めてキスをした時柔らかかった君の唇が、いつの間にか厚くなってた。
つないだ手の柔らかさがとても愛しかったのに、それはいつのまにか少年のものではなくて男の指になってた。

君の成長が嬉しい。
でも、君の成長が怖い。

あの頃君の瞳は俺だけに向けられていたけれど、今の君の瞳は俺以外にも向けられているのが怖い。

とても、とても怖いんだ―――。







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