思ってもいなかった。
真っ暗闇の世界で、小さくため息をつくと、そのまま枕に寄りかかる。

目が見えない。

それがこんなにも今までと違った世界で生きているように感じてしまうなんて。
いつもの自分のベットにいるはずなのに、どこか別の世界にいるみたいだった。
「獄寺くん…早く戻ってこないかな。」
とりあえず綱吉の現状をリボーンに報告にいくといって、彼が出て行ったのが10分ほど前だと思う。
いや、こういうときは時間がたつのが遅いから、本当はまだ10分どころか5分もたっていないのかもしれない。
もう一度ため息をつくと、綱吉はずるずるとそのままふとんの中に潜り込んだ。
真っ暗だということ。目を開けているのに、なのに真っ暗だということ。それが…とても怖かった。
世界が変わってしまったみたい。

こんこん。

扉を叩く音が聞こえて、綱吉は小さく肩を震わせた。
「失礼します。10代目。」
「獄寺くん!」
待っていた人物が戻ってきて、綱吉は喜んで起き上がった。
ふとんをはいで、身を乗り出せば、扉の方から小走りで駆け寄ってくる音が聞こえてきて、綱吉は足を止めた。
ベットからおろしかけた足をとめて、目の前にきた人物を見上げる。
見上げるといっても、見えてはいないのだが。
鼻を擽ったのは煙草と、彼の愛用している香水の匂いだ。
「待ってたんだ。こんなとき一人は辛いね。」
「10代目…くそっ…。なんで…俺が、俺がかわりになれたらっ…!」
「なにいってんだよ。自業自得なんだし。」
「でもっ…!」
悔しそうな獄寺の声に苦笑する。
真っ暗闇の世界で、1人でなくなった。それだけでこんなにも心が安心するなんて。
「10代目…。」
辛そうな声で名前を呼ばれる。
「ん?」
軽く返事をして、顔を上げたら、するりと頬に冷たい手が滑り込んできた。
それに小さく体が震える。
「獄寺くん?」
「………。」
頬に触れる獄寺の手。
いつもと同じ手だ。
この手にふれられると、心があったかくなって、幸せを感じる。
「……ごく…。」
けれども…けれど、なんだかいつもと違った感じがした。
目の前にいるのは、獄寺だ。
嗅ぎ慣れた煙草の匂い、香水の匂い、そして掌の感触。
目が見えないからだろうか、嗅覚も、触覚も敏感になってる。
だからだろうか?
なんだかいつもと、違う、気がして…。

「………お前っ………!」

綱吉は反射的に、掌に押し当てられた手を、弾いた。

「10代目?」

戸惑うような、獄寺の声。
けれど、その声には、いつもと違う色が見え隠れしてた。

「骸っ…!」
「………。」

目の前にいた人物の気配が、一瞬でかわる。
ゆらりと揺れたその気配に、綱吉は眉根を寄せた。
ばくんばくんと心臓は煩く鳴り響き、体が小さく震える。

「……本当に………気分が悪い。」
「……なに、してんだよ。お前。獄寺くんを、どうするつもり?」
「目が見えなくても、あなたは、そうやって見分けてしまうんですね。」
「骸?」
「声も、体も、あの男のものです。何が不満ですか。」

小さく笑う声が聞こえる。
綱吉はこくりと唾を飲み込むと、真っ暗闇のむこうを睨みつけた。






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