目の前ですやすやと寝息を立てる綱吉に、獄寺はどうしていいのかわかりませんでした。
綱吉の委員会が終るのを待っていて、気がついたら寝てしまって。
起きてみたら今度は目の前で綱吉が寝ていました。
最初は夢かと思いました。さっきまで見ていた夢とまったく一緒のシチュエーションだったからです。
でも自分の頬をつねってみれば痛みがあったので、それは夢ではないとわかりました。
窓の外を見れば夕焼け色に染まる空や、木々が見えました。
カキーン!と聞きなれた野球部の練習している音も聞こえてきます。

こくりと。つばを飲み込みました。

イツモと同じ教室なのに、いまは2人きりです。
すやすやと寝息を立てる綱吉は、獄寺の一番大切で、一番大好きな人でした。
この人の右腕になると心に誓った日から、獄寺の中で大切に大切に育ててきた感情です。
大切に、大切にしてきた感情だからこそ、この思いを綱吉に伝えるつもりはありませんでした。
伝えることの出来ない感情だと、わかっていたからです。

「十代目…。」

それでもやっぱり獄寺も男の子。まだ中学生の、男の子です。
好きな人には触れたいし、好きな人と2人きりになってしまっては、やましい気持ちが込み上げてきます。

どきん。どきんと。加速していく心臓の音に、ぱしぱしと瞬きを数回繰り返します。

おそるおそる。手を伸ばしました。
すやすやと眠る綱吉の、その柔らかそうな頬に指を伸ばして。
いざ、触れてみようとした瞬間。

「ん…で、ら…く…。」

慌てて指を引っ込めました。
どきんっとひときわ大きく心臓の音が鳴って、次にばくんばくんと心臓が暴れだします。
身体中がホッカイロになってしまったんじゃないかと思うくらいにあつくなりました。
こんなふうになったのは初めてです。
思わず泣きたい気持ちになりました。

どうしたらいいのかわかりません。
こんなに好きになってしまって、どうしたらいいのかわからなかったのです。
今までこんなに人を好きになったことが無い獄寺にとって、この感情をどうしたらいいのかまったくわからなかったのです。
わからなすぎて、感情の波が強すぎて、思わず涙が溢れ出そうになりました。

好きすぎてどうしたらいいのかわからなくて。
好きすぎて触れたくて、でも好きだから触れることが出来なくて、大切すぎて想いを口にすることが出来なくて。

「どーしたらいいっすか…俺。」

今なお目の前ですやすやと眠る綱吉に、獄寺は押し殺したようなため息を1つ零したのでした。



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