「十代目は…。」

真剣な獄寺くんの声にどきりとして顔を上げれば、獄寺くんの喉がコクリと動くのが見えた。
俺の肩を痛いくらいに掴む獄寺くんの指に、眉をしかめつつも辛くなる。
震える指先が、今の獄寺くんの気持ちを俺にダイレクトに伝えてくるから。

「俺が…。」

泣きそうな顔をしないでほしい。
泣きそうな声を出さないでほしい。

そしてそんな真剣な、真摯な瞳で俺を見ないで欲しい。

そんな顔をされて、そんな瞳をされて、そんな声で。
俺は息が出来なくなってしまうくらいに、辛くて。
息苦しかった。
別に水の中でもなんでもないのに、息苦しかった。
呼吸の仕方がわからない。

思わず瞳を逸らそうと、ぎゅっと目を瞑る。

「俺が嫌いですか?」

泣きそうだった。
震える獄寺くんの指から伝わる気持ち。
痛いくらいに力の込められた指先。
真剣な声。
真剣な瞳。

呼吸が美味くできない。

「ご…。」

喉がからからでうまく声が出なかった。
なんとかつばを飲み込んで、もう一度口を開こうとしたら、獄寺くんの指がするりと俺の背中に回されて。

気がついたらふわりと抱きしめられていた。

「十代目は、俺が、嫌い、ですか?」

ずるい。
涙が溢れた。
獄寺くんはずるい。
ずるくて、臆病で、卑怯で。

そしてなんて、愛しい人なのだろう。

「きらいじゃ…ないよ。」

嫌いかと聞かれて、嫌いだとこたえるようなほど嫌いなわけが無い。
好きかと聞かれたら、戸惑ってこたえられないけれど。
でも嫌いかと聞かれれば、嫌いじゃないとしかいえない。

「それ以上は求めません。」

そしてほら、やっぱり獄寺くんはずるい。
こうやって俺の心を縛り付けて、ひきつけて、息も出来ないくらいに苦しくさせておいて。
そうやって逃げるんだ。
一線を引いて、逃げるんだ。

なんてずるくて、卑怯で、臆病で。

俺を抱きしめる腕の力加減がわからないのか、獄寺くんはまるで壊れ物を扱うみたいに優しくやさしく俺を抱きしめてくる。

なんてずるくて、卑怯で、臆病で…そしてなんて、愛しい人なんだろう。

そのずるさも、卑怯さも、臆病さも。
すべてが愛しく思えてくる。

それ以上求めないと君が言うなら、俺はどうしたらいいのだろう。
どうしたらこれ以上求めてこない君に、俺の全てをあげることができるんだろう。

「獄寺くん。」
「なんですか?」
「獄寺くんは俺のこと、好き?」

好きかと聞かれて、君はなんてこたえるの?



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