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□ジュエリートレイ 「ここは…?」 建物の中を一通り歩いた後、ふっと目にとまった扉に釘付けになる。 扉の横にある見たこともない機械をじっとみて、それは最初ココに来たときに山本が掌絵を当てていたものと似ていることに気がついた。 「ん?あーそこはツナの部屋。」 「俺の?」 「そ。私室だってさ。」 「ふうん…。」 他の部屋と違って、目の前に立っても扉が開かない。 自動ドアではないようだったので、ドアノブでもあるのかと扉を見てみるがそんなものはなかった。 入ってみたいという興味はあるのだが、どうやら何か仕掛けが必要らしい。 戸惑っていた綱吉に、山本はははっと笑うと扉の横にある緑色のモニターを指差した。 「ツナの網膜がキーだ。だから開けられるはずだぜ?お前なら。」 モニターの前に立って瞬きを2,3回繰り返して。 ピピッという電子音がしたと思ったら、ひゅんっと軽快な音を立てて扉が開いた。 途端に目の前に広がる空間。 そして鼻を擽った香りに、一瞬戸惑う。 自分はこの香りを良く知っているけれど、なんの香りなのだろう。 「へェ〜あまり家具とかないんですね。」 ひょいっと後から獄寺が覗き込み、その隣で山本も覗き込んでくる。 自分の部屋ではないのだがなんだか気恥ずかしくて、ツナは少し戸惑いながらその部屋に足を踏み入れた。 「俺もはいんの初めてだ。」 「そうなの?」 「ああ。」 山本も興味深そうにきょろきょろと室内を見渡していた。 仮眠にでも使うつもりだったのかソファベットと、少し大きめの机。 そしてクローゼット。 机の上にあるシルバーの灰皿が目に付いて、綱吉はソレを手に取った。 「10年後の俺って、煙草吸うんだ…。」 「あー…ツナ、それ…。」 「十代目!すごいっス!スーツがこんなに!俺前から十代目には白が似合うと思ってたんス!」 クローゼットを開けて、中から出てきた数着のスーツに獄寺が嬉しそうに綱吉に話しかける。 数点取り出しては、苦笑する綱吉に当てて、「かっこいいっす!」やら「似合うっス!」やら「渋いっス!」やらおおはしゃぎだ。 少し恥ずかしそうに頬を染めて笑う綱吉と、嬉しそうにはしゃぐ獄寺に山本は小さく笑った。 懐かしい光景だった。 「アレ?これなんだろ。」 ソファベットの前にあった小さなガラスのテーブルの上にある、ガラス製の灰皿の隣に、小さなシルバートレイがあった。 灰皿ではないのは一目瞭然だ。 なんだろうかとそれを手にとって、中を覗き込んで。 中身を見たとたん、綱吉の頬が一瞬で桜色に染まり、じわじわと耳元まで赤く染まっていく。 「十代目どうしたんですか?」 「ツナ?」 「え、あっ…と、う…。な、なんでもない。」 「それジュエリートレイっすね。」 ばっとトレイをテーブルに戻した綱吉の手元を見ながら、獄寺がさらりと言う。 獄寺の言葉に、綱吉の頬は桜色どころか真っ赤に染まった。 それに山本がおかしそうに笑う。 「中にあるの、みたことあるんじゃねーの?獄寺。」 「え?」 山本に言われてトレイを手に取る獄寺。 中を見て、中にあった複数の指輪の中から1つをつまみ上げて…今度は獄寺の耳が真っ赤に染まった。 「コレ、この前の誕生日に十代目に貰ったリング…。」 「うわわわわわ。」 綱吉は慌ててそのトレイを獄寺からひったくった。 耳まで真っ赤に染めて慌てる綱吉を、獄寺は驚いてじっと見つめた。 「なんでこんなところに…?」 「お前がソコに置いたからだろ?」 はははっと山本が笑う。 綱吉は耳まで真っ赤に染まりながらそのシルバートレイを乱暴にテーブルに置いた。 獄寺は瞬きを数回繰り返すと、耳まで真っ赤に染まりながらコクリとつばを飲み込んだ。 「えっと、その…つまり。」 「ああもー!!もう次の部屋いこ!!」 獄寺の手からリングを奪いトレイにおいて。 綱吉は獄寺と山本の背中をぐいぐいと押した。 ああもうすごく恥ずかしい。 部屋の扉が開いた瞬間、鼻腔を擽った懐かしい香りは獄寺のコロンの香りだ。 ところどころにある灰皿だって、自分のための灰皿じゃない。 灰皿にあった吸殻の銘柄は、自分が唯一知っている煙草の銘柄だ。 なんでソファベットの近くのテーブルにジュエリートレイがあるかなんて、少し考えればわかってしまう。 ああもう本当に俺達って! 10年たってもかわらず傍に。 |