□熱情




いつもと違う。


そう気がついたのは、いつものように重ねるだけのつもりの口付けが、深いものになっていると気がついたときだった。
いつものように啄ばむ様にくちづけられて、くすぐったいなと少し笑いそうになったら下唇を軽く噛まれた。
噛まれて引っ張られて、何だろう？って思って唇を薄く開いたら、その隙間から獄寺くんの暖かくて柔らかな舌がぬるりと忍び込んできて。
驚いて思わず口を離そうとしたら、頤をつかまれて肩に触れてた手が俺の後ろ、背中に回されて。

「んんっ…！」

びっくりして固まる俺の身体をそのまま引き寄せて、獄寺君が首の角度を微かに変えれば、もっと深く、深く、まるで食べられちゃうんじゃないかってくらいに、大きく口付けられた。
逃げかけた舌を追いかけられて、信じられないくらいに獄寺くんの舌が俺の舌を絡めとり。
じゅるっと音がするくらいに激しく吸い上げられて、身体中の力が抜けてしまった。
へなへなと力の抜けた俺の身体を、獄寺くんの腕が支えて…ゆっくりと。
俺の視界が揺れる。

とすんっと。
俺の背中が床に触れて。
俺の背中から頭にかけてを支えていた獄寺くんの手が、するりと抜き取られたと思ったら、俺の髪の毛をゆっくりと撫で上げる。

「ごく…れら…く…。」

やっと解放された口から出たのは、自分でもきいたことのないくらいに舌ったらずな声で。
かーっと耳まで真っ赤に染まる。
自分を見おろす獄寺くんの顔も、今までに見たこともないくらいに真剣で。
そんな真剣な瞳で、射抜くように俺の瞳を覗き込んできている獄寺くんが、少しだけ怖くて。
身体が微かにぶるりと震えた。
食べられてしまう。
このままでは、俺は頭のてっぺんからつま先まで、全部全部食べられてしまう。

「じゅうだいめ…。」

ぶるっと、身体が震えた。
熱い。熱くて真剣で、低く響くような声。
欲を含んだ瞳と、声。

獄寺君が求めてることがわかった。
口内に唾液がたまって、思わずそれをごくりと飲み干したら喉が鳴って。
その喉に、獄寺君がゆっくりと…唇を押し当てて。
俺の体は再びびくりと跳ねる。
身体中が熱い。自分の上に身体を重ねてきた獄寺くんの体も熱い。

どうしたらいいんだろう。

嫌じゃない。
そりゃびっくりしたけれど、嫌じゃない。
嫌じゃないけれど怖い。

「ごく…。」

どうしたらいいのかわからなくて。
そんな俺の首筋に、獄寺君が軽く歯を立てた。
燃えるように熱い吐息もかかってきて、それが更に俺を煽る。

「俺、もう、無理です。」
「ごくでらくん…。」
「あなたが欲しい。」

身体中の血液が波打った。
心臓も早鐘のように鳴り響いて。
身体中がぶるりと震える。

怖い。でも。
こんなにも君が俺を欲しいと思ってくれるのなら。

かたかたと小刻みに震える手を、彼の背中にゆっくりと回して…。
ぴくりと彼の身体が動いた瞬間、ぎゅっとぎゅっとそのまま抱きついた。










「んっ…！」

奪うような口付けの合間に、獄寺くんの指は俺の服の隙間から忍び込んできていて。
肌の上を滑るようにその指が動いたと思ったら、胸の突起をその指が摘んできた。
自分でも信じられないくらいに、そこはすでに堅く尖ってしまっていて。
女の子じゃあるまいしそんなところ感じるわけがないと思ったのに。獄寺君がソコを触っていると思ったら、自然と声が漏れてしまった。

「ァっ…！」
「十代目、かわいい…声。」
「やっ…！」

獄寺くんこそそのいやらしい声はなんなんだよ！
文句を言いたくても口を開いたら、自分でも信じられないような声しかでないのはわかっている。
ぎゅっとぎゅっと唇を噛み締めて、背中に回した獄寺くんの服を握る手に力を混める。
そしたらいきなり獄寺くんは俺のシャツを一気にたくし上げると、その中に頭を入れてしまって。
まさかっ！？
って思ったときには、すでに獄寺くんの紅い舌がちらりと見えてしまった。
これから来るであろう刺激に、思わずぎゅっと目を閉じて。
閉じた瞬間、外気に触れたその尖りに、暖かな吐息がかかり…そして暖かくて柔らかなもので包まれる。

「あっ…ンっ…！」

ぴちゃぴちゃと舐める音が聞こえて、そしてたまにじゅっと吸われる音が聞こえて。
尖りを舌先で舐められたりつつかれたり。その度に身体が小刻みに跳ねてしまう。
思わず逃げかけた身体は、背中に回した獄寺くんの手に阻まれて。
そのまま身体を微かに持ち上げられて、獄寺くんの唇は俺の乳首に激しく吸い付いてくる。

「ンンっ…！」

刺激を与えられているのは胸なのに。身体中の血液は下半身へと集まってしまって。下着の中にある俺の性器は痛いくらいにもう堅くなってしまっていた。
その熱いモノが、獄寺くんのどこかに微かに触れてしまって。
きっと獄寺くんには俺がすでにそうなってしまっていること、伝わってしまったのだと思う。
さっきまで吸い付いていないほうの乳首を愛撫していた彼の手は、するすると身体の表面を撫でるように滑り降りていったかと思ったら、俺の下着の中に簡単に忍び込んできてしまっていた。

「ひゃっ…！」

今だ薄い茂みをかきわけると、俺の勃ちあがったモノを獄寺君がやんわりと包んだ。
熱いそれに感じた他人の熱と指の感触に、身体が大きく跳ねる。
それはびくびくと跳ねて、いとも簡単に尖端からねばっこい液を放出してしまって。
あまりにもな出来事に、俺も、獄寺くんも、驚いて動きが止まってしまった。
おそるおそる瞳を開ければ、驚いた顔をした獄寺君がいて。
その顔にかーっと顔が一気に熱くなる。

「もっ！やっ…！ダメ！やっぱ、ダメだよっ…！！」

じたばたと暴れる俺の性器を、握り締める手に力を混めて。
獄寺君が微かに笑った。
獄寺君が少しだけ手を動かしたら、ぬるりとした感触が伝わってきて。
べたべたになった性器が、悲しいかなまた少し反応してしまった。

「だってこんなの、初めてなんだ！人に触られるのも、こ、こんなのっ…！」

開放感とかそう言うのよりも恥ずかしさでいたたまれない。
恥ずかしい。
自分ばっかりいっぱいいっぱいで、自分ばかりが余裕がなくて。

「十代目。可愛いです。」
「可愛くなんてないよ！」
「可愛いです。」

ちゅっと。音を立てて頬に口付けられる。

「なんかずるいよ。」
「何がですか？」
「俺ばっかり、余裕がない。獄寺くん、なんか慣れてるし！」
「なれてなんていないですよ。」

くすりと笑う獄寺くんの笑顔。それが慣れてるっぽくて、余裕っぽくて、なんだかずるいって、言ってるのに。

「好きな人をやっと抱けるっていうのに、余裕なんてないです。気のきいたセリフ１ついえなくて、すみません。」

苦笑する獄寺くん。
どきりとした。言葉にもだけれど、それ以上に。その表情に。
余裕があると思っていたけれど。
いつもの獄寺くんなら、余裕持ってる獄寺くんなら、きっとこんな俺の緊張を解そうと色々と話してくれるのだろう。
声をかけてくれるのだろう。
なのに今日はどうだ。
性急なキス。何もいわずにすすんでいく愛撫。

かかーっと身体中が熱くなる。
たまらない。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。

ばくんばくんと心臓は煩いし、身体中が熱いし。
なんだか泣きそうになってきた。
もうどうしたらいいのかわからない。
こんなの、知らない。
なんだかもうぐちゃぐちゃだ。

「十代目。」

声をかけられて顔を上げれば、獄寺君が俺の額に口付けてくれた。
そして閉じた目蓋に、鼻のてっぺんに、頬に。
ひつとつひとつゆっくりと、丁寧に、繰り返される口付け。

「俺、もう堪え切れなくて。余裕なくて。あなたの心を待てなかった。」
「ごくでらくん？」
「あなたが自然と求めてくるまで、待つつもりだったのに。」
「俺が？」
「ええ。」

身体をゆっくりと起こされる。

「あなたが好きです。」
「うん。」
「大切にしたいんです。」
「うん。」
「こういうことは、お互いがお互いを求めてすることだから。一方的だったら身体は満足するかもしれないけれど、心は満足できないから。」
「………うん。」

真剣な瞳で、獄寺君が俺の瞳を覗き込んでくる。

「あなたは俺を欲しいと。思ってくれますか？」
「………っ。」

思わず言葉に詰まった俺に、獄寺くんは小さく笑った。
その笑顔に、一瞬どきりとして。

「あなたが俺を欲しいって、自然と思ってくれるまで俺、やっぱり待てます。」
「獄寺くん？」
「あなたが好きだから。」

どうしよう。
どうしよう。
小さく笑う獄寺くんに、伸ばしかけた手をぎゅっと握り締めて。

俺が君を欲しいと思うまでだって？

小さく笑う獄寺くん。

どうしよう。

今俺の胸の中にあるこの気持ちは、君が求めるソレではないの？
湧き上がる衝動。
身体中が、君を、求めてる。

「ごくでらくっ…！」

堪えていた手を必死に伸ばして。
驚いた君の背中にまわして。
ぎゅっとぎゅっと抱きついて。

「獄寺くん獄寺くん獄寺くん！！」

君が欲しいんだ。

俺の勢いに、獄寺くんの身体がぐらりと揺れる。

「うわっ…！」

慌てた獄寺くんの手が、俺の腰に添えられて。
こんな時も俺の身体を支えてくれようとする君の優しさが愛しい。

「俺もっ…君が欲しいんだ。」

彼のおなかに馬乗りになったままそういえば、獄寺くんは一瞬瞳を見開いて…へらりとなんともしまりのない口元で笑った。


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