□帰り道 いつものように授業が終わって、少し離れた席にいた獄寺くんが鞄を掴むと俺の席までとんでくる。 昨日までとかわらない光景だ。 「十代目!帰りましょう!」 言葉だって、昨日までと全然かわらない。だけどなんだか獄寺くんはどこかはにかむような笑顔を浮かべてて、俺は俺でそんな獄寺くんの顔を直視出来なくて、ぱっと顔を反らしてしまう。 「そうだね。」 わたわたと机の上にちらばっていた荷物を纏めて、そのまま鞄の中につっこんで。 準備できたよ!と顔をあげたら、俺をみつめてた獄寺くんの温かな瞳と目があってしまって・・・どきりと胸がたかなってしまった。 かかーっと顔が熱くなって、ばくんばくんと心臓はうるさくて。 「今日は寒いです。マフラーしてから外にでましょうか。」 校舎をでるまで廊下を歩きながら、つければいいやと思ってまだつけてなかった俺のマフラーを、獄寺くんの長くて綺麗な指先がつかむ。 そしてふわりとそのマフラーを、俺の首にかけてくれた。 ほわりと冷たい外気が遮断されて、マフラーのぬくもりで包まれる。 「ありがとう。」 「風邪を召されては大変ですから。」 ふわりと笑う瞳が温かくて、優しくて。 どきどきしてしまう。 かっこいいな〜なんて見惚れてしまって、俺は慌てて俯いた。 なんだろう。こんなの、昨日まで当たり前だった。 いつもいつも獄寺くんは優しかった。 なのになんで、今日はこんなにドキドキしちゃうんだろう。 なんでこんなに獄寺くんがかっこよくみえてしまうんだろう? 「優しいね。獄寺くん。」 「当たり前っスよ!だって俺は十代目の・・・」 獄寺くんの言葉にぱっと顔をあげる。 ばちっと目が合って、獄寺けんは少し間をあけとから、再びはにかむように微笑んだ。 ふにゃりととろけるようなその笑みに、とくん。と小さく胸が音をたてる。 「恋人ですから。」 カカーっと真っ赤に頬を染めて獄寺くんがそんなことをいうから。俺の身体もつられてカカーっと熱くなる。 「か、帰りましょうか!」 「あっ、う、うん!」 照れたようにくるりと俺に背をむけた獄寺くんの、ゆらりと揺れた手を慌ててにぎりしめる。 「っ!?」 驚いて振り返った獄寺くん。 ばくんばくんと煩い俺の心臓。 恥ずかしさに倒れそうだったけど、獄寺くんの強張った手を掴んだ手に力をこめる。 驚き見開かれた翡翠の瞳を、じっととらえて。 こくりと唾を飲み込んだ。 「手・・・!」 「十代目・・・?」 「手、繋いで帰ろう?」 「・・・。」 「寒いし!そ、それに、俺達・・・。」 「十代目っ!」 掴んでいた手が、ぐいっと引き寄せられる。 そしてそのまま、バランスを崩した俺は、獄寺くんの温かな胸板にキャッチされた。 「はい!手、繋いで帰りましょう!だって俺達、今日から恋人同士なんですから!」 満面の笑みで、獄寺くんがぎゅーっと俺を抱きしめてくれる。 とたんになんだかすごく、すっごく恥ずかしくなってきて、俺は真っ赤になってしまってるであろう顔を、煙草の香がするソコに押し当てた。 なんだろう。 昨日の帰り道は友達同士だった。 今日の帰り道は恋人同士だ。 たったそれだけの違いなのに、世界はなんでこんなにも昨日と今日で色が違うのか。 なぜこんなにもキラキラで、ほわほわなのか。 「十代目!好きです!大好きです!初めてお会いしたときより、昨日より、もっともっと大好きです!」 「俺も!俺もそう思ってた!」 今まさに自分が思っていたことを言われて、反射的に顔をあげる。 いままでみたこともないような、獄寺くんの満面の笑みが視界に飛び込んできて、俺は息を飲む。 獄寺くんがしあわせそうなのがうれしい。 俺も幸せだとおもった。 幸せな世界に二人きりって、なんて温かいんだろう。 つめたく冷えた指先を絡めあって、微笑みあって。 恋人同士になって初めての帰り道。 幸せに続く道を二人で歩こう。 |