くらりと世界がまわったと思ったら、大きな掌で支えられた俺の身体が、とさりと地面に下ろされる。
とても綺麗な満面の星空と、真剣な獄寺くんの顔だけが、俺の視界を支配する。
翡翠の瞳がゆらりと苦しそうに歪められて、俺はこくりと唾を飲み込んだ。
何がおこったのかわからなかった。
でも、彼のその表情がとても真剣だったから。
彼が何を胸に押し込んでいるのか知っているから、だからこくりと唾を飲み込む。
とくん。とくんと。静かな世界で俺の鼓動が鳴り響いて。
銀の髪の毛がさらりと、月明かりの下で輝きながら零れ落ちるのが見える。

「俺…10代目のこと、好きって、いいましたよね?」
「うん。」

とくん。とくん。心臓の音が加速していく。

「それは…あなたにキスしたいとか、抱きしめたいとか、そういう好きだって…いいましたよね?」
「うん。」

辛そうな彼の顔に、ぞくぞくする。
自分を草の上に組み敷いた彼の、切羽詰ったようなその声はとても胸にくるもので。

「お返事を、いただけますか?」

言われた言葉にこくりと唾を飲み込む。
言われたのは1週間前。
それ以来、君がずーっと俺を遠巻きに眺めては、ため息をついているのに気がついていたよ。
でもずーっとそれすらもはぐらかしてた。

だって怖かったんだ。

君が好きだよ。
大好きだよ。
でも言ってしまったら、この先自分達はどうなるんだろう。
どうなってしまうんだろう。
君が俺を好きで、俺も君が好きで、お互いがお互いを好きで。

この先自分達はどうなるの。

今のこの幸せなときが変わってしまうのが怖い。
どんな風にかわってしまうのかがわからないのが怖い。

男の人を好きになったことなんて初めてなんだ。
好きになった人に好きだといわれたことだって初めてなんだ。

「…すみません、俺…。」

何も言わない俺に、君は一瞬泣きそうな瞳をして…その綺麗な翡翠の瞳を伏せてしまう。
そして俺を組み敷いていた身体を起こすと、そのまま月を見上げた。

満天の星空と、満月と、光り輝く君。

「バカなことを言ってすみません。忘れてください。俺はあなたの傍にいられればそれで良かったのに…強欲にも、それ以上を求めてしまった。」

とくん。胸が高鳴る。

綺麗な綺麗な君の、苦しそうな声。

「獄寺くん…。」
「忘れてください。何もなかった。あなたはボンゴレボスで、俺は…俺には…。」
「獄寺くん。」
「あなたの右腕になる資格があるのでしょうか?」

涙が溢れそうになる。
痛い。胸が痛い。
いつも強気な君が、こんな風に弱くなってしまうのが辛い。

「それ以上って…なに?」
「10代目?」
「キスをしたいとか、抱きしめたいとか、そーゆーの?」
「それはっ…そうなんですけれど。」

月明かりの下で、君の耳が真っ赤に染まる。

「あなたの特別になりたい。」
「…特別?」
「あたなにとって、たった一人の存在になりたいんです。」
「そんなのっ…!」

泣きそうな顔で笑う獄寺くんの頬に、両手を伸ばして。
冷たく冷えたその頬を、温かな掌で包み込む。

「そんなの、とっくになってるよ?」

満天の星空の下で、君が驚き瞳を見開く姿が、ゆらりと揺れる。
目頭が熱くて、鼻の奥がつーんとして痛くなってきて…。
ぽろりと、俺の頬を暖かな雫が零れ落ちた。

怖いんだ。

俺の特別になんて、とっくになってる。
だから怖いんだ。
君が俺の全てになってしまって、君なしでいられなくなってしまって、俺が俺でなくなってしまって。

本当の俺を知ったら君が俺から離れていってしまうかもしれないのが怖いんだ。

それなのに、どうしてこんなにも君が好きなのをとめることができないんだろう。
溢れそうなくらいに積もり積もった想いは、思わず言葉になって口からポロリと零れてしまった。

「10代目っ…!」

嬉しそうな君の顔が、ゆっくりと近付いてくる。

キスされる…!

そう思って、ぎゅーっと瞳を閉じて構えたときだった。
とさりと君の頭が、俺の胸に落っこちてきて。
小刻みに身体を震わせる獄寺くんに、驚いて目を開ければ、視界には一杯に広がった満天の星空。
ちらりと視線を下に動かせば、銀の糸がさらさらとみえる。

「ごくでらくん。」
「じゅうだいめ。」
「星が綺麗だよ。」
「星ですか?」

ぽろ、ぽろ。ぽろ、ぽろ。涙が溢れてとまらない。
なんだろ。なんでだろ。わかんないけれどとまらない。
満天の星空が綺麗だ。
広い広いどこまでも続く星空。

なんだか自分がとってもちっぽけに思えた。

とってもちっぽけで、自分の悩みもとて見ちっぽけなものに思えてきた。

「うん。綺麗なんだ。」
「…はい。」

俺の上にのかっていた獄寺くんが、ゆらりと揺れて…とさりと俺の横に寝転がる。
2人して同じようにごろんっと寝転がって、星空を見上げて。

「10代目。」

名前を呼ばれて横を向いた瞬間、暖かなぬくもりを唇に感じた。




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