いといきも




「人を好きになると言うのは…一体、どういう感情なのでしょうか?」

真剣な瞳で言われた言葉に、言葉を失った。
え?ちょっと待って…。
頬をほんのりと紅く染めて、恥ずかしそうに聞いてきた獄寺くん。
聞かれた俺はなんて返事をして良いのかわからなくて、ぱくぱくと口を開いたり閉じたりすることしか出来ない。

「えっと…獄寺…くん?」
「す、すいませんっ!急に、オレ、変なこと聞いて…。」
「えっと…。」
「今まで誰かを好きになったこととかなくて、シャマルに人を好きになったことがないのかとか聞かれて、俺、よくわかんなくて…。」

かあっと頬を更に真っ赤に染めて、獄寺くんがオレから目を逸らしてくる。
それにつられてオレの方こそ頬がカーッと熱くなってしまう。

「人を、好きに、なるってのは―――その人の傍にいたいとか、その人のために動きたいとか、そーゆーので…一緒にいるとドキドキしたり、自分だけを見てもらいたくなったりとか、そーゆーの…じゃ、ないかなァ…?」

言ってて益々顔が熱くなる。顔だけじゃない。
熱くて熱くて、体中が熱くて、なんだかすごく恥ずかしい。
だって。だってそれって。

『10代目!一生あなたについてきますっ!』
『10代目のためなら、これくらいどーってことないっスよ!』
『10代目はお優しいから、そうやって阿呆牛のコトとか、山本のコトとか気遣ってやってますけど…でも、俺だって…俺だって、たまには10代目と遊びに行ったりとかしたいですっ…!』

普段君が俺にいってくれる言葉にぴったりと当てはまるから。

「傍にいたいとか…ドキドキしたりとか…っスか?」

俺の言葉に、獄寺くんがぱっと顔を上げる。
その瞬間にばちりと目があって、今度は俺が獄寺くんから瞳を逸らす番だ。

だって、君が、俺に向けてくれる全ての感情は、世間一般では恋情と呼ばれるものではなかったの?
山本だって、リボーンだって、まわりの皆が君が俺をそーゆー意味で好きだって気がついているよ。
俺だって勿論気づいていたよ。
気がついていたけれど、「獄寺くん俺のこと好きだよね?」なんて自分から言えるワケがないから、言わなかったけれど。
君の瞳の熱にも、言ってくれる言葉の含む意味も、全部全部気がついていたよ。
なのに当の本人は、自分の気持ちに気がついていなかったっていうの?!
それどころか本人目の前にしてそんな質問してくるの!

「俺がずーっと傍にいたいのは10代目だけですっ!10代目のためになることならなんだってしたいですし、一緒にいるだけでドキドキすんのも10代目だけですっ…!」

だからそれが…。

「ってことは、俺が好きなのって…好きなのって…?」

途中まで言って、獄寺くんはこくりと唾を飲み込んだ。
ここまでこないと自分の気持ちにすら気がつかない彼は、とたんにカカーッと顔を真っ赤にさせて、そのまま俯いてしまった。
綺麗な翡翠の瞳が、困惑に揺れている。

「俺が…ずーっと一緒にいたいいって思うのも、一緒にいてドキドキすんのも獄寺くんだけだよ。」

しょうがないから、ふっと笑ってそういえば。
目の前の翡翠の瞳が、ゆらりと揺れた。

「つまりそれって、世間一般で言う両想いってことでしょうか?」

真面目な顔して、それでいて興奮が隠せない表情で、鼻息荒く君はそう言う。

「そうなるのかな。」

ああもう。本当に。
どうしたらいいんだろう。この人は。

真面目な顔して、真っ赤な顔して、にへらって笑って。

「俺、初めて好きになった人が10代目でよかったです!初めて両思いになれた人が10代目で幸せです!」
「最初で最後だったら素敵だね。」

そういった俺に、君は満面の笑みで恐る恐る手を伸ばしてきた。
震える手で、一瞬俺に触れようとして…唇を噛み締める。

「あの、抱きしめても良いでしょうか?」
「そーゆーのは聞かなくていいんだよ。両思いなんだから。」

そういえば、暖かな腕が俺の身体を包み込んで。
煙草の香りが俺を包んで、暖かなぬくもりで満たされる。
ちらりと獄寺くんの顔を覗き込めば、満面の笑みで微笑むのが見えた。
とたんになんだか胸の奥がきゅーっとする。
あれ?
あれ?
なんだろう。このキモチ。
好きだ。獄寺くんが好きだった。
でもなんか、こんなキモチ、初めてだ。
胸の奥がキューっとして、なんだかとても幸せで。

「あ。」
「どうしました?10代目?」

わかった。

「ううん。なんでもないよ。」
「10代目。好きです。」
「うん。俺も。獄寺くんが好きだよ。」

わかった。
俺の言葉に、獄寺くんはやっぱりにっこりと笑って。
世界中の幸せを独り占めしたみたいに笑って。
そんな獄寺くんの笑顔が嬉しくて。愛しくて。
そう。きっと愛しいって、こういう気持ちをいうんだろう。




>>>戻る