□いとしいきもち 「人を好きになると言うのは…一体、どういう感情なのでしょうか?」 真剣な瞳で言われた言葉に、言葉を失った。 え?ちょっと待って…。 頬をほんのりと紅く染めて、恥ずかしそうに聞いてきた獄寺くん。 聞かれた俺はなんて返事をして良いのかわからなくて、ぱくぱくと口を開いたり閉じたりすることしか出来ない。 「えっと…獄寺…くん?」 「す、すいませんっ!急に、オレ、変なこと聞いて…。」 「えっと…。」 「今まで誰かを好きになったこととかなくて、シャマルに人を好きになったことがないのかとか聞かれて、俺、よくわかんなくて…。」 かあっと頬を更に真っ赤に染めて、獄寺くんがオレから目を逸らしてくる。 それにつられてオレの方こそ頬がカーッと熱くなってしまう。 「人を、好きに、なるってのは―――その人の傍にいたいとか、その人のために動きたいとか、そーゆーので…一緒にいるとドキドキしたり、自分だけを見てもらいたくなったりとか、そーゆーの…じゃ、ないかなァ…?」 言ってて益々顔が熱くなる。顔だけじゃない。 熱くて熱くて、体中が熱くて、なんだかすごく恥ずかしい。 だって。だってそれって。 『10代目!一生あなたについてきますっ!』 『10代目のためなら、これくらいどーってことないっスよ!』 『10代目はお優しいから、そうやって阿呆牛のコトとか、山本のコトとか気遣ってやってますけど…でも、俺だって…俺だって、たまには10代目と遊びに行ったりとかしたいですっ…!』 普段君が俺にいってくれる言葉にぴったりと当てはまるから。 「傍にいたいとか…ドキドキしたりとか…っスか?」 俺の言葉に、獄寺くんがぱっと顔を上げる。 その瞬間にばちりと目があって、今度は俺が獄寺くんから瞳を逸らす番だ。 だって、君が、俺に向けてくれる全ての感情は、世間一般では恋情と呼ばれるものではなかったの? 山本だって、リボーンだって、まわりの皆が君が俺をそーゆー意味で好きだって気がついているよ。 俺だって勿論気づいていたよ。 気がついていたけれど、「獄寺くん俺のこと好きだよね?」なんて自分から言えるワケがないから、言わなかったけれど。 君の瞳の熱にも、言ってくれる言葉の含む意味も、全部全部気がついていたよ。 なのに当の本人は、自分の気持ちに気がついていなかったっていうの?! それどころか本人目の前にしてそんな質問してくるの! 「俺がずーっと傍にいたいのは10代目だけですっ!10代目のためになることならなんだってしたいですし、一緒にいるだけでドキドキすんのも10代目だけですっ…!」 だからそれが…。 「ってことは、俺が好きなのって…好きなのって…?」 途中まで言って、獄寺くんはこくりと唾を飲み込んだ。 ここまでこないと自分の気持ちにすら気がつかない彼は、とたんにカカーッと顔を真っ赤にさせて、そのまま俯いてしまった。 綺麗な翡翠の瞳が、困惑に揺れている。 「俺が…ずーっと一緒にいたいいって思うのも、一緒にいてドキドキすんのも獄寺くんだけだよ。」 しょうがないから、ふっと笑ってそういえば。 目の前の翡翠の瞳が、ゆらりと揺れた。 「つまりそれって、世間一般で言う両想いってことでしょうか?」 真面目な顔して、それでいて興奮が隠せない表情で、鼻息荒く君はそう言う。 「そうなるのかな。」 ああもう。本当に。 どうしたらいいんだろう。この人は。 真面目な顔して、真っ赤な顔して、にへらって笑って。 「俺、初めて好きになった人が10代目でよかったです!初めて両思いになれた人が10代目で幸せです!」 「最初で最後だったら素敵だね。」 そういった俺に、君は満面の笑みで恐る恐る手を伸ばしてきた。 震える手で、一瞬俺に触れようとして…唇を噛み締める。 「あの、抱きしめても良いでしょうか?」 「そーゆーのは聞かなくていいんだよ。両思いなんだから。」 そういえば、暖かな腕が俺の身体を包み込んで。 煙草の香りが俺を包んで、暖かなぬくもりで満たされる。 ちらりと獄寺くんの顔を覗き込めば、満面の笑みで微笑むのが見えた。 とたんになんだか胸の奥がきゅーっとする。 あれ? あれ? なんだろう。このキモチ。 好きだ。獄寺くんが好きだった。 でもなんか、こんなキモチ、初めてだ。 胸の奥がキューっとして、なんだかとても幸せで。 「あ。」 「どうしました?10代目?」 わかった。 「ううん。なんでもないよ。」 「10代目。好きです。」 「うん。俺も。獄寺くんが好きだよ。」 わかった。 俺の言葉に、獄寺くんはやっぱりにっこりと笑って。 世界中の幸せを独り占めしたみたいに笑って。 そんな獄寺くんの笑顔が嬉しくて。愛しくて。 そう。きっと愛しいって、こういう気持ちをいうんだろう。 |