ひどい




「ロマ。」
「なんだ?」
名前を呼ばれて顔を上げる。
呼んできた主の方を見れば、自信満々な笑みでゆったりと自分に視線を向けてきていて。
その真っ直ぐな瞳に臆する事無く、ロマーリオはその瞳を見つめ返した。
「好きだ。」
「そうか。俺もだ、ボス。」
「お前なァ…。」
言われた言葉に顔色1つ変えないロマーリオに、声の主、ディーノは唇の端を持ち上げた。大体返ってくるであろう返事はわかりきっていたことだったので、こちらもたいして驚かない。
「キスしろ。」
「………。」
二人きり、静かな部屋でディーノの声が響く。
済んだ綺麗な声だけれど、それはとても力強く辺りに響いた。
ロマーリオは目を通していた資料をディーノの机の上におくと、そのまま磁石に引き寄せられるようにディーノに近付いた。
机の上に置かれたディーノの拳が、小さく震えている。
その拳を見たあとに、視線を再びディーノの瞳に戻して。
ロマーリオは相変わらず顔色1つ変えなかった。
そしてその震える拳を手に取ると、ゆっくりとソレに唇を近づける。
冷たく冷えた手の甲に、自分の少しかさついた唇を押し当てて…それをじっと見つめていたディーノの視線を感じながら、ゆっくりと唇を離していく。
「ボスのご希望ならいくらでも。」
「俺の だ。」
かたかたと震える手の甲をじっと見つめて。
ロマーリオはこくりと唾を飲み込むと、一度ゆっくりと瞳を伏せた。そして深呼吸を繰り返して…瞳を開ける。
顔を上げてディーノを見れば、頬がまるで林檎のように真っ赤になってて。
なんだか泣き出しそうなその顔に、ロマーリオは小さく笑った。
「ならできねェ。」
「ロマ。」
「俺はできねェな。ディーノ。」
泣き出しそうな瞳が、ゆらりと揺れる。
何度も何度も、ディーノの力強い瞳がこうして揺れるのを見てきた。
それは必ず、自分に向けられてのものだったけれど。
自分のボスは、気がついていないのだ。その瞳に、どれだけの力があるのかを。
身体中を巡る、抑えきれないくらいに激しい衝動を、自分がどれほど長い間この体の中に押し込めてきたことか。
今更ぐらつくような、やわな精神は持ち合わせていないが、それでもやはり少しだけ、胸が痛む。
「お前は世界で一番ひどい男だよ。ロマーリオ。」
「それはこっちのセリフだ。」
「お前は俺のものだ。違うか。」
「俺はボスのものだ。」
「…やっぱりお前はひどい男だよ。」
カタカタと震えていたディーノの拳が、ロマーリオの胸に押し当てられる。
自嘲気味に笑うディーノの肩に腕を回して、ロマーリオはその身体を自分の胸に抱き寄せた。
自分から見たらとても小さなあの頃とちっとも変わらない、胸の中にすっぽりと納まるディーノの体だ。
「ほんと、ひでェ。」
ディーノの震える声に、ロマーリオは小さくため息をついた。




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マイ設定が一杯。
とりあえず、ディーノが「ロマ」ってロマーリオに声をかけるときは、ディーノとしてかけてます。「ロマーリオ」って呼ぶときはボスとして声をかけるときです。
また、ロマーリオもそうです。「ボス」はキャバッローネのボスのことを示し、「ディーノ」はディーノ個人を示します。滅多に呼びません。「ディーノ」ってロマーリオに呼ばれたら、ディーノはもう黙るしか出来ません。「ボス」って呼ばれても黙るしかありません。
ロマーリオが自分を呼ぶ呼び方にはそれだけの意味と、重みがあるからです。
つまるところ、今はボスでいるべき場面、ディーノ一個人でいてもいい場面ってのが、暗黙の了解みたいな感じで伝わるんですね。

つまるところ、最初にロマって呼んだディーノに対し、ロマーリオはボスってかえしているので、暗に「もうこれ以上は言うな。」とディーノに釘刺してんですね。ロマは。
なのにディーノはそれ以上を言ってきたので、ロマーリオさんがちょっと意地悪したわけです。
それはボスの命令か?と。
で、ディーノは、自分の願いだと返事したわけですが、ならばそれはできないと。ロマーリオはキャバッローネの一員ではなく、ロマーリオとして断ったわけです。
ボスでも部下でもなく、ただのディーノとロマーリオとして、キスは出来ないと、その後の二人のやりとりでわかって。
懇願するように小さく言われた「ロマ。」でも、「俺は、できない。」って返事。
それだけ冷たくしといて、最後に抱き寄せるのは本当にひどい男だよ…ロマ…。


っていう色々な背景があるわけですが、そんな説明書かなくても伝わるような小説が書けるようになりたいものです。
オトナの二人のかけひきみたいな小説は大好きです。大好物です。
アダルティーバンザイ。

そして全国のロマディノファンの方すみません…。





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