□告その



「獄寺くんって俺が好きなの?」
なんでそんなこと聞いちゃったのかなんてわからない。
なんでかつい、聞いてしまったのだ。
そう問いかけた俺のことをさっきまでニコニコしてみていた獄寺くんの顔つきが、少しだけこわばった。
笑顔が固まって、瞳が見開かれてる。
んでもって続けてかかーっと耳まで真っ赤に染まると、彼は数回瞬きを繰り返した。
「す、好きですよ?俺は、一生10代目に忠誠を誓うって決めましたから!」
まるでロボットみたいにカクカクしながら、獄寺くんは力いっぱいこたえてくる。
思わず噴出してしまった後に、俺はもう一度問いかけた。
「そーゆー好きなんだ?」
「えっ…あ、の、10代目?」
なんだろう。この胸にふつふつと湧き上がってくる感情は。
目の前で真っ赤になってうろたえている獄寺くんがかわいくてかわいくてたまらない。
だってこんなに真っ赤なのに、こんなに動揺しているのに、まだばれてないと思ってる。
「獄寺くん。」
つつっと近づいて、獄寺くんの膝とぶつかりそうになるくらいに自分のほうから近寄れば、獄寺くんはつつっと後ろに逃げてしまった。
「あのっ、10代目っ…今、あんまり、近寄らないで下さい。」
「なんで?」
うつむいた真っ赤な顔を覗き込むようにすれば、彼はばっとまたもう少し後ろに下がった。だから俺は追いかけるように膝を詰めていく。
「俺のっ…俺の、好きはっ…!」
「うん?」
意地悪だと思う。けど、でもなんだか真っ赤になって困ってる獄寺くんをもっともっと見たくて、俺はじーっと逃げて視線をそらしていく獄寺くんを追い詰めた。
とんっと、獄寺くんの背中が、俺のベットに当たって。
彼はこくりとつばを飲み込んだ。
「部下が…ボスに抱いていいような感情とは違った、好き…です。だから、あまり近寄られると!!」
「近寄られると?」
俺の問いかけに、うつむいていた顔をがばっとあげて、獄寺くんは泣きそうな瞳で俺を見据えてくる。
「あなたに何をしてしまうかわかりません。」
「何がしたいの?」
だめだ。やばい。すごく、かわいい。
すごく、いとしい。
目の前で必死な、獄寺くん。
笑いそうになる口元を必死にこらえて、俺は彼の瞳をじっとじっと見つめた。
ゆらりと彼の潤んだ翡翠が動いて、膝の上に作られていた拳にぎゅっと力が込められるのが見える。
あ。やばい…?
「手を握り締めたくなります。」
「………。」
押し倒されるのかと思った俺は、彼の言葉にほっとしてしまう。
「…いいよ?」
ほっとして、次にそのまま手を彼に差し出した。
獄寺くんは目の前にある俺の手に戸惑ったように視線をさまよわせた後、恐る恐るその手に触れてくる。
うわ。やばい。
汗ばんだ彼の手が、彼の緊張を伝えてくる。鼓動を伝えてくる。真っ赤な頬と、真剣な瞳。
彼のどきどきが、俺に伝わってきてしまったのか、俺もなんだか急にどきどきしてきてしまう。
熱い彼の手が、ぎゅっと握り締めてくるその手が、燃えるように熱い。
「次は?」
ばくん。ばくん。心臓がうるさい。
目の前が真っ赤だ。
「な…名前を、呼びますよ?」
「…へ?」
「つ、つ、綱吉っ…さん…!」
「はい。」
あ。今のちょっと間抜けだった。
名前を呼ばれてつい返事をしてしまった。
やばい変な反応しちゃったかなと、おそるおそる顔を上げてみたらそんな心配は無用だった。
獄寺くんは真っ赤になったまま、目をくるくるさせてる。
うわあ。もうここでキャパがいっぱいなんだ。
なんでここまで、俺のことなんて好きになれるんだろう。
わかんないや。
「ごくでらくん?」
「す、すいません!!俺、調子乗っちゃって!!」
俺が名前を呼んだとたん、われに帰った獄寺くんが、ぱっと手を離してくる。
その手を俺はあわてて追いかけて、今度は自分からぎゅっと握り締めた。
「だっ!大丈夫だよ!俺も君が好きなんだからっ!」
「はっ…?」
真っ赤な真っ赤な獄寺くんが、さらに真っ赤に真っ赤に染まっていく。
俺はもう一度、口を開いた。
「だから、俺も獄寺くんが…むぐっ!」
開いた口を、獄寺くんの手のひらで塞がれる。
「じゅっ…10代目っ!やめてください!いわないでください!俺、俺っ…このままじゃ死んでしまいますっ!」
「なっ、ちょっ…ごくっ…んっ…!」
口を手のひらで覆われて、俺は何もいえない。
獄寺くんは真っ赤になったり真っ青になったりと、さっきからあきらかにおかしい。
これ、もうやばいんじゃないの?
「10代目!俺、もうっ…あのっ…その、失礼しますっ!!!」
そういうだけいって、獄寺くんは勢いよく立ち上がると、そのまま逃げるように俺の部屋から飛び出していってしまった。
俺は呆気にとられて、彼の背中を眺めるだけで、なにもいえなかった。
いえなくて…はっとわれに返る。
あまりにも急な出来事で、われを忘れてしまった…!!
「ちょっ…!獄寺くんっ!?!?」
あわてて窓から身を乗り出せば、家の目の前の電柱に、がんがんと頭をぶつけている獄寺くんが見える。
「俺は!俺はなんて都合のいい夢を!!夢をおおおお!!!!」
なにやら叫び声も聞こえる。
「ごくでらくん!!」
「うおおおお!!!!!!」
がんがんがん!!すごい音が聞こえる。俺はあわてて階下への階段を駆け下りた。
やばいこのままじゃ彼の中で今日の記憶がなくなってしまう!
「ごくでらくんっ…!」
靴もはかずにあわてて玄関からとびだすと、俺は目の前で電柱に向かって頭をぶつけている獄寺くんに後ろから抱きついた。
ばくん。ばくん。俺の心臓だけじゃない。彼の心臓も大きく大きく鳴り響いている。
だめだ。嬉しい。かわいい。たのしい。いとしい。
いろんな感情が入り混じって、気持ちが高ぶる。
「俺、君のことっ…!」
「10代目愛していますっ!」
大きく口を開いてしようとした告白が、彼のセリフでかき消される。
「愛しているんです!好きなんて単語じゃ足りないんです。違うんです。もう好きとかそーゆーレベルじゃないんですっ!!」
そしてがばっと逆に抱きしめられてしまう。

うええええええええっ!?!?!?!!?

あ、あ、あ、愛っ…!?!?!?!?!?

ばっくんばっくん心臓がうるさい。
かかーっと体中が熱く熱くほてる。
抱き寄せられた胸板の硬さ、熱さに、どきりと心臓がはねた。

だめだ。もうだめだ。うれしい。たのしい。いとしい。かわいい。
だいすき。あいしてる?

いろんな感情がいりまじって、ぐるぐるで、わけがわからなくて。

「お、俺もっ!俺もきみのこと…。」

そうなんとか口にするのが精一杯だった。





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