痛いことは嫌いだった。 怖いことだってもちろん大嫌いだ。 なのに――――。 ●甘い痛み● 身体のあちこちが痛くて、起き上がるのが少し辛かった。 けだるい身体のままでゆっくりと起き上がって、俺は自分の手のひらをじっと眺めた。 そのあとに腕に、胸に、おなかに視線を落として…ほんの少しだけ頬が熱くほてるのを感じる。 まぶしさに瞳を細めながら、隣をみれば…うっすらと唇の端を持ち上げて眠る獄寺くんがいる。 「ごく…。」 あ。 自分のかすれた声に驚いて、手の甲で唇に触れた。 かかーっと、頬がさらにさらに熱く熱くほてってしまう。 そういえば喉が痛い。 少しだけかすれてしまった声。 あちこちと微かにいたむ身体。 腕に、胸に、腹に、咲いた赤い花。 痛いのは嫌いだった。 怖いのも嫌いだった。 体中が痛い。 ふっと瞳を閉じれば、自分を組み敷いた獄寺くんを鮮明に思い出した。 綺麗でしなやかなその腕が動いてた。 綺麗で美しい翡翠の瞳が、熱っぽく潤んでた。 熱くて熱くて、苦しくて辛くて、死にそうで。 痛かったし、未知なる行為に対する恐怖があった。 こわかった。けど、でも、大丈夫だった。 痛かったけど、でも、大丈夫だった。 獄寺くんが優しく、キスをくれたから。 今だって体中が痛いけど、でも全然嫌じゃない。 むしろ、なんだか、とても嬉しい。 心地よい、痛み。 甘い、甘い、痛み。 かすれた声。 身体中につけられた赤いアト。 変なところに力が入っちゃってたみたいで、あちこち変なふうに筋肉痛だ。 わかる人には、わかっちゃうんだろうなぁ。 なんて、思いながらもなぜか口は笑ってしまう。 ああ。どうしよう。 今すぐ部屋から飛び出して、そして大声で叫んでしまいたい。 自分は今、とても、幸せなのだと。 「獄寺くん。」 隣でまだ眠る彼の頬にそっと唇を寄せて、俺は微笑む。 自分たちにとってなんの意味ももたらさないはずの行為だと思ってた。 むしろむなしくなるんじゃないかって思ってた。 けど、全然違ってた。 こんなにも、心が満たされるなんて。 「ありがとう。」 自分が世界で一番大切だと思う相手に求められること。 そして求めること。 そしてその気持ちが通じ合うこと。 こんなにも………こんなにも。 あぁ。どうしよう。 暖かな気持ちで満たされる。 俺を幸せにできるのは、君だけなんだ。 だから俺が今幸せだと思えるのは、君が与えてくれたからなんだ。 俺も君を幸せにしてあげたい。 両手で抱えきれないほどの幸せを、君に。 |