と地



「じゃあ、十代目。俺はそろそろ失礼します!また明日!」

にっといつもみたいに玄関先で笑って、律儀にきちんと頭を下げる獄寺君に軽く手をふる。
無邪気なと言っていいほどに、素直な君の笑顔が少し憎いと言ったら、君はなんて言うんだろうか?

「うん。また、明日ね。」

そしてすこし名残惜しいと言ったら、君はどんな顔をするだろうか?
背中を向けようとした獄寺君の、服の裾を掴む。
ひっぱられるその感覚に、獄寺君は少し驚いたような顔をして振り返った。

「十代目?」

少し困ったような、戸惑ったような、声。

「………。」

今のこの、どこか淋しい気持ちを、どんな言葉にしたらいいのかわからなくて。
だまっていたら彼は微かに笑った。

「そんな顔をされると、俺帰れないですよ?」
「ご、ごめん!」

顔に出ていたのかと、急に恥ずかしくなって慌てて服の裾を掴んでいた手を離す。
掴んでいた指先まで熱く熱を帯びて。
自分の耳まで真っ赤になる音が、耳元で聞こえてくる気がする。
はなした手首を獄寺君が、追い掛けるように掴んできて。
捕まれた瞬間、胸が大きく跳ねた。

「十代目にそんな顔させちまったら、俺どうしたらいいのかわからないです。」
「困らせるつもりは、なくて。ただ、なんだか、急に寂しいなとか…あっ、ううん。ちがくて。そうじゃないんだ。あの、オレっ…。」

自分でも何を言っているのかわからない。
恥ずかしくて獄寺くんの顔を見ることが出来なくて、俯いていたオレの頤に獄寺くんの指が滑り込んだ。

「十代目。」
「ごくでら…くん?」

促されるまま顔を上げれば、目の前に君の顔。
吐息が触れ合うくらいに近くで、彼の目がゆっくりと閉じていくのが見えた。

うわっ…!

って思って、反射的に目を瞑る。

ぎゅっとぎゅっと目を瞑っていたら、唇に微かに触れた柔らかなもの。

「このまま俺んちに連れて帰りたいです。」
「ご、獄寺くん!?」
「でも、そんなことは出来ないから。俺も明日あなたにあえるまで我慢しますね。」

少し切なそうに笑う獄寺くん。
寂しいのはオレだけじゃない。そう思っていいのかな?
にっとまた笑って、獄寺くんはオレから離れた。
もう追いかけることもできなくて。

そのまま手をふる。




まだ、顔が熱い。
別にキスが初めてなわけではないけれども、何回してもなれなかった。
いつだって緊張してる。
だって綺麗な獄寺くんの顔が、すごく近くにあるのだ。
目の前にある獄寺くんの顔は、本当にどきりとするくらいにかっこよくて、綺麗で。
いつも緊張してしまう。

さっきまで獄寺くんが座っていたところに座って、そのまま膝を抱えた。

なんでだろう。
さっきまで一緒にいたときは凄く楽しくて、凄く幸せだったのに。
彼がいなくなったとたんに、ぽっかりとこの胸にあいたようなキモチは。
ぎゅっと自分の膝を抱えれば、微かに煙草の香と獄寺くんの香りがする。
急に胸が苦しくなって。

ますます泣きたい気持ちになって、ぎゅっとぎゅっと膝を抱えた。



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