□天国と地獄 「じゃあ、十代目。俺はそろそろ失礼します!また明日!」 にっといつもみたいに玄関先で笑って、律儀にきちんと頭を下げる獄寺君に軽く手をふる。 無邪気なと言っていいほどに、素直な君の笑顔が少し憎いと言ったら、君はなんて言うんだろうか? 「うん。また、明日ね。」 そしてすこし名残惜しいと言ったら、君はどんな顔をするだろうか? 背中を向けようとした獄寺君の、服の裾を掴む。 ひっぱられるその感覚に、獄寺君は少し驚いたような顔をして振り返った。 「十代目?」 少し困ったような、戸惑ったような、声。 「………。」 今のこの、どこか淋しい気持ちを、どんな言葉にしたらいいのかわからなくて。 だまっていたら彼は微かに笑った。 「そんな顔をされると、俺帰れないですよ?」 「ご、ごめん!」 顔に出ていたのかと、急に恥ずかしくなって慌てて服の裾を掴んでいた手を離す。 掴んでいた指先まで熱く熱を帯びて。 自分の耳まで真っ赤になる音が、耳元で聞こえてくる気がする。 はなした手首を獄寺君が、追い掛けるように掴んできて。 捕まれた瞬間、胸が大きく跳ねた。 「十代目にそんな顔させちまったら、俺どうしたらいいのかわからないです。」 「困らせるつもりは、なくて。ただ、なんだか、急に寂しいなとか…あっ、ううん。ちがくて。そうじゃないんだ。あの、オレっ…。」 自分でも何を言っているのかわからない。 恥ずかしくて獄寺くんの顔を見ることが出来なくて、俯いていたオレの頤に獄寺くんの指が滑り込んだ。 「十代目。」 「ごくでら…くん?」 促されるまま顔を上げれば、目の前に君の顔。 吐息が触れ合うくらいに近くで、彼の目がゆっくりと閉じていくのが見えた。 うわっ…! って思って、反射的に目を瞑る。 ぎゅっとぎゅっと目を瞑っていたら、唇に微かに触れた柔らかなもの。 「このまま俺んちに連れて帰りたいです。」 「ご、獄寺くん!?」 「でも、そんなことは出来ないから。俺も明日あなたにあえるまで我慢しますね。」 少し切なそうに笑う獄寺くん。 寂しいのはオレだけじゃない。そう思っていいのかな? にっとまた笑って、獄寺くんはオレから離れた。 もう追いかけることもできなくて。 そのまま手をふる。 まだ、顔が熱い。 別にキスが初めてなわけではないけれども、何回してもなれなかった。 いつだって緊張してる。 だって綺麗な獄寺くんの顔が、すごく近くにあるのだ。 目の前にある獄寺くんの顔は、本当にどきりとするくらいにかっこよくて、綺麗で。 いつも緊張してしまう。 さっきまで獄寺くんが座っていたところに座って、そのまま膝を抱えた。 なんでだろう。 さっきまで一緒にいたときは凄く楽しくて、凄く幸せだったのに。 彼がいなくなったとたんに、ぽっかりとこの胸にあいたようなキモチは。 ぎゅっと自分の膝を抱えれば、微かに煙草の香と獄寺くんの香りがする。 急に胸が苦しくなって。 ますます泣きたい気持ちになって、ぎゅっとぎゅっと膝を抱えた。 |