ダイ



あの時から俺は、いつも胸にダイナマイトをかかえている。

口に咥えたタバコをゆらゆらと揺らせば、目の前を掠める紫煙も揺れた。
ぼーっと屋上からグラウンドを眺める。
最もグラウンドなんて目に映っていなかったけれど。

ムリヤリ両手に持った大量のボムを足元に落としそうになって、あやうく自爆しそうだったのを助けられたとき、目の前の人に心が奪われた。
落ちていくボムを残らず掴み、その火を消して。

「十代目…。」

ぎゅっと掴まれたボムたち。
そのとききっと自分の胸も、ぎゅっと。十代目に掴まれたのだと思う。
憧れだとばかり思っていた想いが、恋心だったのだと。
気がつくのはそう難しくなかった。

夜な夜な夢の中に現れる十代目は、普段なら絶対に口にしない言葉をして、そして…ゆっくりと。一枚一枚服を脱いでいくのだ。
白くしなやかな肢体が、ゆっくりと動いて。
猫のように弓なりになる背中は、円やかな曲線を描いた。
苦しそうに俺に伸ばしてくる手は、指先まで小さく震えて。
紅い舌がちろりと覗いて、息苦しそうに口を開いて、したったらずな声で十代目が囁くのだ。
自分の名前を。

思い出すだけで苦しい。

そんな夢を見ては罪悪感に包まれる。
ありえなかった。
そんなこと、ありえない。

十代目にとって、自分は部下の1人でしかない。
最も、その部下の中でも一番頼りにしてもらいたいし、一番近くにいられる存在になりたいと、常々思ってはいたけれど。
でもそれは部下としてだ。
強くて、頼もしくて、お優しい十代目が。
とても可愛くて、とても愛しい。といったら、あの人はどんな顔をするだろうか。

あの日から自分にとって、十代目が全てなのだ。
他に誰も要らない。
他の誰も要らない。
自分にとって十代目が世界で、十代目が絶対で、十代目が全てなのだから。

「あ。獄寺くん!」
「十代目!」

後から名前を呼ばれて、ぱっと振り返る。
振り返った先、大きく手を振った十代目と、その横で「またせたなー」などと笑う野球ヤローがいた。

「お疲れ様っス!十代目!!んでてめェは待ってねェ。」

十代目は偉い。
他の奴ならシカトしそうな、補習の授業も真面目に受けられる。
説明の悪い教師のせいで、苦労されているようだった。

「まぁまぁ。さ。帰ろうよ。」
「はい!」

伸ばされた手にどきりとした。

夢の中で伸ばされた、十代目の手。
指先までチカラの込められた震える指先。

ぶんぶんと頭を振る。

「どうしたの?」
「いえっ!なんでもありません!」

どきりとした。
押し殺した感情が、頭をもたげたような気がして。

口にしてはいけない。
知られてはいけない。
心の奥底に、感情を押しやって。

「獄寺ー?」
「獄寺くん?」
「帰りましょう!十代目!」

煙草を落として踏み消した。
踏み消した煙草の火。
煙草の火と一緒に、この気持ちも踏み消せればいいのに。




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