□ダイナマイト あの時から俺は、いつも胸にダイナマイトをかかえている。 口に咥えたタバコをゆらゆらと揺らせば、目の前を掠める紫煙も揺れた。 ぼーっと屋上からグラウンドを眺める。 最もグラウンドなんて目に映っていなかったけれど。 ムリヤリ両手に持った大量のボムを足元に落としそうになって、あやうく自爆しそうだったのを助けられたとき、目の前の人に心が奪われた。 落ちていくボムを残らず掴み、その火を消して。 「十代目…。」 ぎゅっと掴まれたボムたち。 そのとききっと自分の胸も、ぎゅっと。十代目に掴まれたのだと思う。 憧れだとばかり思っていた想いが、恋心だったのだと。 気がつくのはそう難しくなかった。 夜な夜な夢の中に現れる十代目は、普段なら絶対に口にしない言葉をして、そして…ゆっくりと。一枚一枚服を脱いでいくのだ。 白くしなやかな肢体が、ゆっくりと動いて。 猫のように弓なりになる背中は、円やかな曲線を描いた。 苦しそうに俺に伸ばしてくる手は、指先まで小さく震えて。 紅い舌がちろりと覗いて、息苦しそうに口を開いて、したったらずな声で十代目が囁くのだ。 自分の名前を。 思い出すだけで苦しい。 そんな夢を見ては罪悪感に包まれる。 ありえなかった。 そんなこと、ありえない。 十代目にとって、自分は部下の1人でしかない。 最も、その部下の中でも一番頼りにしてもらいたいし、一番近くにいられる存在になりたいと、常々思ってはいたけれど。 でもそれは部下としてだ。 強くて、頼もしくて、お優しい十代目が。 とても可愛くて、とても愛しい。といったら、あの人はどんな顔をするだろうか。 あの日から自分にとって、十代目が全てなのだ。 他に誰も要らない。 他の誰も要らない。 自分にとって十代目が世界で、十代目が絶対で、十代目が全てなのだから。 「あ。獄寺くん!」 「十代目!」 後から名前を呼ばれて、ぱっと振り返る。 振り返った先、大きく手を振った十代目と、その横で「またせたなー」などと笑う野球ヤローがいた。 「お疲れ様っス!十代目!!んでてめェは待ってねェ。」 十代目は偉い。 他の奴ならシカトしそうな、補習の授業も真面目に受けられる。 説明の悪い教師のせいで、苦労されているようだった。 「まぁまぁ。さ。帰ろうよ。」 「はい!」 伸ばされた手にどきりとした。 夢の中で伸ばされた、十代目の手。 指先までチカラの込められた震える指先。 ぶんぶんと頭を振る。 「どうしたの?」 「いえっ!なんでもありません!」 どきりとした。 押し殺した感情が、頭をもたげたような気がして。 口にしてはいけない。 知られてはいけない。 心の奥底に、感情を押しやって。 「獄寺ー?」 「獄寺くん?」 「帰りましょう!十代目!」 煙草を落として踏み消した。 踏み消した煙草の火。 煙草の火と一緒に、この気持ちも踏み消せればいいのに。 |