げられた



目をあけた瞬間、口から心臓が飛び出るのではないかと思った。
驚きすぎて声すら出なかった。
綱吉にとって、それくらい衝撃的だったのだ。

「ら…ランボっ…!?」

普段から日常ではありえないようなことが、あたりまえのように身の回りに起きる。
そんな生活の中で、最近はそんなに驚くことは少なくなってきていたのだけれども。
それでも朝起きて、突然目の前にいつもと違う人が自分の隣で寝ているのは、かなり衝撃的だった。

いつも小さなランボが寝ぼけて自分の布団に潜り込んでくることがあるので、恐らく今回もそうだったのだろう。
夜中にランボが勝手に入ってきて…きっと自分が起きるほんの少し前…5分以内に、ランボが10年バズーカを誤射したのだと思う。
そういえば、突然の大きな音と衝撃で目が覚めたのだったと、今更ながらに思い出した。
目の前で寝ている…しかも何故か上半身裸で…大人ランボに驚きすぎて、そんなことも忘れてしまっていた。

こんなに近くで大人ランボの顔を見たことは無い。
思っていた以上に綺麗な肌と、伏せられた長いまつげ。
整った顔立ち。今の5歳ランボからは想像もつかないくらいに、悔しいけれどもいい男になっていると思う。
漂う色気は普通の15歳の男の子のものではないと、常々思っていた。
そんなことを思っていたらランボの寝息が聞こえてきて、ほんの少し鼻先に寝息がかかった。
あまりにも近いその距離に、慌てて身を引こうとしたら…突然大人ランボの腕が伸びてきて、きつく抱きしめられてしまう。

「ら、ランボっ…ちょ、はな…。近い!近いって!!」

益々2人の距離が縮まる。押し戻そうとした掌は、ランボの裸の胸に直に触れてしまって。その暖かさと、思ってもいなかったその胸板の硬さに、どきりと綱吉の心臓が跳ねた。

どどどどど、どうしよう!!!

だっていつもは小さなランボで、寝ぼけて自分に抱きついてくることはあっても、それはしがみつくといった感じなわけで、こういった抱きしめるといったものではなかったわけで。

「ボンゴレ…。」

どきんっ…!!

ひときわ大きく心臓が跳ねる。
突然のランボの声。寝言なのか少し掠れたその声が紡いだのは、大人ランボがいつも自分を呼ぶときの名称で。
ばくん。ばくんっと心臓の音が高鳴る。

「………しい人。」
「ランボ?」

何?

聞き取れなくて、寝言だとわかっていても聞き返してしまう。
そのとたんに、ぎゅっと抱きしめられて。
押し当てた掌から、心地良い音が伝わる。

「愛しています。」

どきんっ…!!!

「愛、して…。」

どくんどくんどくん…

え?え?えええええええええ?????????

予想もしていなかった寝言に、頭の中が真っ白になる。
くるくると回って、視界が回って。
綱吉にはどうしていいのかわからなくて。

「愛…?」

どうしようどうしようどうしようっ…!!!!

くるくる回る頭に、何も言えずに混乱していたら。
ぴくんっと。伏せられたランボの目蓋が動いて。

「ら、らんぼ?」

情けないほどにダメダメな声しか出なかった。
長いまつげが数回動いて…ゆっくりと。その漆黒の瞳が瞬いた。

「………若き………ボンゴレ…十代目?」

掠れた、声。

どきんっと、もう朝から跳ねてばかりの心臓がまたもや大きく跳ねて。

「夢じゃ、ない?」
「ランボ?」
「夢じゃ………。」

どこか寝ぼけたようなそんな眼差しで、ランボが綱吉を見つめる。
抱きしめている腕に僅かに力をこめて…ランボの顔が。ただでさえ吐息と吐息が触れ合うほどに近かった顔が益々近付いて。
綱吉の緊張で力の込められた唇に、ランボの吐息が触れた瞬間。



ぼわんっ………!!!



長くて力強く自分を抱きしめていた腕も、整った綺麗な顔も、綺麗な漆黒の瞳も。
もうそこにはなくて。
すやすやと鼻水をたらして眠る、幼いランボが自分に抱きついていて。
さっきまでは抱きしめられていたのに、そう。今は抱きつかれてる。

「………。」

身体中が熱かった。
ばくんばくんと今もまだ心臓は大きく煩くて。

『愛しています』

今もまだ耳の奥で残っている、ランボの低い声。
寝起きの掠れたその色っぽい声で、自分の名前を呼んで。
漆黒の瞳が、自分の顔を覗き込んでいた。

そして、一瞬だけ。
自分の唇に触れた、ランボの熱い吐息。

「うわわわわわわっ………!!」

思い出した瞬間、身体中の血液が沸騰するんじゃないかと思った。
抱きついてきているランボをそのまま引き剥がすと、頭の下にあった枕を頭から被る。

ありえない。
ありえない。
ありえないよ。そんなこと!!!

一瞬でも、勿体無かったと思ってしまったなんて。

頭のてっぺんから足のつま先まで、熱くてたまらない。

グルグルする頭に、綱吉は枕を握る指先に力をこめた。







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