□好き



「あれ?獄寺それ残すの?」

さっきまで獄寺が食べていた、コンビニの新作お菓子。
秋季限定のチョコがまだ半分以上のこっている箱を指差した。
まだ残っているのに蓋をした獄寺は、俺に話し掛けられたせいか眉間に三割増しの皺を寄せながら、

「あ?」

と機嫌悪そうに顔をあげた。
相変わらず俺に向ける顔はそんなのばかりだ。

「それ。まだ半分以上残ってんじゃん?いらないなら俺に・・・。」
「ふざけたこと言ってんじゃねー。これは十代目の分だ。」

噛み付かれそうな勢いと、相変わらずの返答。
口を開けば「十代目」
獄寺の言葉や行動はいつも、ツナ中心だ。

「意外にに美味かったから、十代目にもな。」

三割増しだった眉間の皺が消える。
すこしほころんだ口元。
獄寺がこんな表情を見せるのは、ツナのことを話しているときだけだ。

「あっ、やっぱ新しいの買ってくるべきか!?」

今度は慌てたように立ち上がって、今にもコンビニへ走りだしそうな勢いだ。
ほんと、くるくると表情が変わる。

「いんじゃね?別に。ツナもそろそろ委員会終わる頃だろうし。」
「そーだな。あ〜はやくおわんねぇかな。」

そしてまた、どこかはにかむような笑顔。少し悔しいと言ったら、こいつはどんな顔をするのだろうか。

「獄寺さーよくそうやってツナに自分が気にいったもん、残してるよな。」
「あったりめーだ。自分が食ってて美味いもんは、十代目にもすすめたくなんだから。」
「それって、美味いもん食ってて、真っ先に浮かぶのがツナってことなん?」
「てめーは違うのか?」

眉間に皺を三割増し。
不思議そうなその表情ははじめてみた。

「獄寺、ツナのことほんと好きなのなー。」

俺がいい終わってから、1、2、3。
きっちり3秒後。
まるでぼっ!って、音が聞こえてくるんじゃないかって勢いで、獄寺の顔が耳まで真っ赤に染まった。
あぁ。こんな表情もまた、ツナにだけよくむけている表情だ。

「な、ば、なっ・・・!?」
「獄寺、わかりやすいのなー。」

ほんと、すっげぇわかりやすいよ。
おまえ。

「俺がうまいもんとかくって、あー食べさせてやりてーなーって思うのは、お前なんだけどな。獄寺。」
「は?」
「だから、お前。」
「別にいらねーよ。」
「うわ冷たい獄寺。」
「んなことより十代目はまだか!」
「もちっとかかんじゃね?」
「やっぱ新しいの買ってくっかなー。」
「もちっと二人でいたくね?」
「今すぐでてけ。部活はどーした。」
「休みー今日のグラウンドはサッカー部のものー。」

どんなに口説いても、獄寺には伝わらない。
俺の言葉なんて半分くらいしか聞こえてない。

獄寺の意識はすべて、ツナに向けられていて。

今か今かと教室の扉が開くのを、じっと見つめて待っている獄寺。
そんな獄寺をじっと見ているオレ。

なんてムナシイんだろう。

そのまま獄寺の座る机につっぷした。

「眠いなら帰れ。」
「眠くない。ちょっと悲しくなっただけ。」
「なんだそりゃ。」
「たまには俺も見ろよなー。」
「?」

ついつい本音を言えば、不思議そうな顔をした獄寺が、ぽんっと俺の頭を叩いた。
それに驚いてばっと顔を上げれば、やっぱり不思議そうな顔して獄寺が俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「てめーはバカみたいに笑ってる方がいい。」
「なんだよそれ。」
「元気出せってこと。」
「…獄寺?」
「十代目が心配なさるだろうが。」

やっぱりそれなのね…。
浮上したと思えばまたもや谷底に突き落とされて。
ああもうやっぱりむなしい。

けれど。

いまだ俺の頭に置かれた獄寺の手がどこか優しい気がして。
温かな掌に、心がかすかに温まる。

やっぱオレ、獄寺が好きだ。






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