■■■ 01. opening


暗い、暗い洞穴の中で。
聞こえてくる音は、風が洞窟を抜ける唸り声みたいな音だとか、雪の降る耐え難いほどの透き通った静かな音だとか、俺の静かな吐息だとかばかりで。
たまに聞こえてくる鳥の声は、生き物の声なのだと言うことだけで嬉しかった。

そんな俺に、ふっと聞こえてきた、音。
この何十年、何百年、気がついたときからずっと、ここにいて人の声なんて聞いたことが無かった俺に、聞こえてきた声。
低く、静かで、それでいてどこか優しくて。
それは耳にじんわりと浸透するような―――暖かな声。
声と言う名の、音。

逆光でよく顔が見えなくて、その眩しさに瞳を細めて。

ゆっくりと輪郭が見えて、俺は首をかしげた。
知らない、眩しい、人が、たっていて。

俺が目の前のこいつを呼んだと言う。
誰も呼んでなんてねぇし、そんな覚えも無ければ、こいつの名前も知らねぇし。

そんな俺に、こいつは舌打ちをして、そして手を伸ばした。

眩しい光の中で、眩しいこいつの髪がキラキラと輝く。
伸ばされた腕。
伸ばされた手。

掴むと暖かくて、ふっと…心が軽くなった。

俺を、この狭い世界から、解放してくれた。

眩しい人。

キラキラ。キラキラ。
輝く眩しい世界の中心。

掴まれた手の暖かさに、嬉しくて顔が緩んだ。

誰かの声を聞いたのも。
誰かのぬくもりを感じたのも。
誰かと会話したのも、誰かと瞳をあわせたのも。

誰かに俺の名前を教えたのも、名前を呼ばれたのも。
誰かの名前を聞いたのも、名前を呼んだのも。

初めてだ―――。



あの暗い、寒い、寂しい、洞穴から。
俺を連れ出してくれた、俺を解放してくれた、黄金色の太陽―――。




→解放



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