■■■ 14. video


まるで壊れたビデオみたいに。
繰り返し、繰り返し、夢を見る。
白と、黒で、構成されたソレは。
飛び散る真っ赤な血液だけ、鮮明な赤だった。
脳裏に焼きついた血液の色。

「っ………!!!」

勢いよく飛び起きて、はァはァと呼吸を繰り返して。
カラカラに乾いた喉が、ごくりと音を立てた。
額に浮かんだ汗のせいでべったりと張り付いた自分の前髪をかきあげて、そのまま額を手で覆う。
ゆっくりと瞳を閉じて、深呼吸を静かに繰り返した。

わずかに震える自分の手。
どくんどくんと血液が音を立てて体中をめぐる。
汗でべたべたになった服に、怪訝そうに眉を寄せた。

ふっと瞳を開けて、隣のベットを見る。
ベットの真ん中で、こんもりと浮かんだ布団。
いつも布団なんてはいでるクセに、今日は丸まっているのかそのまま布団にもぐりこんでいる悟空に、ふっと違和感を得た。

「……オイ。」

声をかけると、もっこりと浮かんだ布団がびくりと僅かに震えた。
それにやっぱりかとため息を吐いた。

「悟空。」

ぐいっと布団を奪い取って、目に飛び込んできたものに息を呑んだ。
頬を真っ赤にさせて唇をかみ締める悟空の、濡れた大きな瞳がくるりと三蔵を見上げていた。

「っぞ…。」

ぎゅっと枕に抱きついて、ぼろぼろと大きな涙を零して。
頬が真っ赤になるほど泣いてるくせに、声を出すまいとこらえている悟空。
それに舌打ちした。
こいつがこんな風に涙をこらえているのは、きっと同室の自分に気がつかれたくないから。
ばかばかしい。
悟空が泣いているかなんて、三蔵には気配ですぐにわかるのに。

「どうした。」
「…夢を…見るんだ。」
「…夢?」

悟空の掠れた声に、眉を寄せる。
震える悟空の唇に指先で触れれば、唇を濡らしていた唾液が指先について月明かりに輝いた。
それをそのまま悟空の唇に塗りつける。

「繰り返し、繰り返し………夢を見るんだ。」

「胸クソ悪ィ…。」

「え?」

「いや…どんな?」

繰り返し、繰り返し見る夢にうなされて、飛び起きたら悟空もそうだという。
なんだか胸がむかむかして、三蔵はそのまま悟空の布団に腰を下ろした。
悟空の抱きしめる枕をとると、そのままベットの下に投げ捨てる。
枕がなくなって震える悟空の腕が、宙を困ったようにさまよって。
その腕を掴むと、そのまま悟空の手を握り締めた。
自分の手のひらよりも、はるかに小さな悟空の手。

「岩牢の中で、毎日毎日繰り返してた。あの日々を夢見るんだ。」
「………。」
「三蔵が来るまでの間、別にそんなの…どってこと…なかった…。」
「………。」
「岩牢の中が俺のすべてで、俺の世界で。でも三蔵が俺を連れ出してくれて、あの時もそりゃ…辛かったし寂しかったよ?でも…、今、三蔵が連れ出してくれたこの世界を知って。三蔵がいる毎日を知って、俺、もっともっと、あの時よりもあの岩牢が怖い。」

がくがくと震える悟空の手を握り締める手に力をこめると、悟空は涙を浮かべた瞳のままへへっと笑った。

「珍しいね。三蔵が優しい。」
「……煩い。寝ろ。」
「コレも夢かな…でもこんな夢ならいいや。三蔵が優しい夢。」
「…こうしててやるから。」

握り締める手に、再び力をこめれば。
悟空は困ったように瞳をさまよわせた後、再び微笑う。
微笑って、そして三蔵の手を少しの間だけみつめて………一瞬戸惑った後、三蔵が手をはなさないのを確認するとそのつながれた手に頬を摺り寄せた。

「うん。」

摺り寄せられた悟空の頬を僅かにべたついていて、それが先ほどまで悟空の流していた涙のせいなのだとわかった。
部屋にある窓からさしこむ月明かりに、悟空の肌が白く浮かび上がる。
瞳を閉じて寝息を立て始めた悟空の髪に、指を絡めると…三蔵はふっと唇の端を緩めた。






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