■■■ 15. immortality 自分だってわかっていた。 永遠なんて時がないこと。 あの岩牢の中にずっと、ずっといて。 それこそ永遠に自分はココにいるんじゃないだろうかって、思ったこともあって。 いるのが当たり前で、鉄格子の外の世界に自分が飛び出る日は来ないと思っていて。 そんな日も、あの日、あの時、三蔵が手を差し伸べてくれた時に。 それはとてもあっけなく崩れて、自分は永遠にも近い時をすごしたその岩牢から逃れた。 だからこそ、わかっていた。 永遠なんてもの、所詮ありえないことなのだと。 物事には始まりがあるように、必ず終わりがあるということ。 始まった瞬間から、すべては終わりに向かって歩いているってこと。 わかっていたけれど。 月夜に照らされる、三蔵の無機質な頬。 青白いその頬をみつめて、長い睫をみつめて。 小さく寝息を立てる三蔵の、この寝顔を知っているのは自分だけだろうか? 月明かりに照らされて、益々綺麗に輝く三蔵の髪の毛に、そっと…指先で触れた。 さらりとやわらかなその髪をそっと撫でて。 なんだか胸の奥が苦しくなった。 わけがわからないけれど泣きたくなってしまう。 「でも…三蔵。」 喉の奥が熱くなって、こくりと唾を飲み込むと息苦しさに眉を寄せる。 キラキラ光る、三蔵の金糸の髪。 すごく綺麗な、整った三蔵の顔。 さっきまで自分に触れていた、キスのときだけ優しい唇。 どれもこれも、自分の好きな三蔵を作る一部。 「でも…わかってるけど、俺、望んじゃうんだ。」 声が掠れた。 かすれて、喉の奥が熱くて、目頭が熱くて、視界が涙で滲む。 自分は妖怪で、三蔵は人間で。 三蔵の命には限りがあること。 限りがあるからこそ、三蔵は輝いているのかもしれない。 その時、その一瞬を輝くために。 自分には無い、限りある命。 三蔵よりも先に逝くつもりはないし、三蔵のあとから逝くのも嫌だ。 どうしていいかわからない。 どうせつきる命なら、死ぬ瞬間まで三蔵と一緒がいい。 できるなら。 「ずっと三蔵の傍にいさせて。」 瞳を伏せて、堪えきれない様に熱い吐息を漏らす。 ゆっくりと、タメながら吐いた吐息の熱が、自分でもわかった。 苦しくて、辛くて、三蔵がこうして自分の隣で寝ているのに寂しくて。 これがなんでなのかもわかっていたけれど。 コレは世間で呼ばれている、恋という、感情なのだと。 今まで感じたことのない感情の波が、三蔵を前にしたときだけ起こるのだ。 それは海のように。 激しかったり、緩やかだったり、静かだったり、煩かったり。 三蔵の僅かな仕草や言葉がたてた風によって、自分の中にある海に波がたつ。 さらりと金糸の髪を指先から零すと、ふっと…視線を感じて瞳を開ける。 とたんに目に飛び込んできた、三蔵の紫暗の瞳。 真剣な、何もかもを見抜くような強い光を宿した三蔵の瞳に、息を呑む。 顔が急に熱くなって、慌てて零れ落ちそうだった涙を拭おうと持ち上げた腕を、三蔵の大きな手のひらが掴んだ。 どきんっと、大きく胸が音をたてて。 「さんぞっ…。」 「……てめぇは…。」 「………?」 「いつまで…。」 言いかけた言葉を飲み込んで、三蔵が軽くため息をつく。 それに僅かに心がつきんと音を立てて。 「…寝ろ。」 そのままぐいっと三蔵の腕に抱き寄せられる。 とたんに自分を包み込んだ三蔵のタバコの香りに、心が僅かに跳ねた。 ほら、また。 いつもそう。三蔵の一言、三蔵の瞳、三蔵の行動。 それらはいつも自分の心に波を立たせる。 大きな波は、だんだんと小さな波へと変化して。 「……三蔵、好きだよ?」 「…あぁ。」 そのまま三蔵の胸に頬を寄せると、悟空は複雑な気持ちのまま瞳を閉じた。 →永遠 |