■■■ 16. evening glow 一日のうちで一番好きな時間はいつ? きかれたら迷わず、自分は夕方と答えるだろう。 空も、木も、水も、三蔵も。 真っ赤に、真っ赤に染まる夕方。 まるで燃えてるみたいなその夕方の時間は、一日で僅かな時間しかなくて。 しかもその夕方も、ほんの10分、20分。 ずれるだけでその景色がまたかわる。 綺麗な綺麗な三蔵を、もっともっと綺麗に染めるこの時間が好きだ。 朝から山のような書類に囲まれて、悪態とため息をつきながら、タバコをぱかぱか吸う三蔵の、仕事がひと段落付く。それがこの時間だった。 書類の山じゃなく、タバコの紫煙に囲まれた三蔵が、顔を上げて。 腹減ったという俺に、「そろそろ夕食にするか。」そういってくれる時間。 散々無視されて、やっと声をかけてくれるこの時間。 俺は本当に嬉しくて、嬉しくて。 夕陽の差し込む窓を背に、三蔵が立ち上がる。 三蔵の綺麗な金髪も、ほんのすこし暖かな色をした法衣も、何もかもが真っ赤に染まって。 綺麗な三蔵が、益々、益々綺麗に染まる。 それが好きだ。 眩しそうに瞳を細めれば、三蔵は僅かに口を緩めて、俺の頭をわしゃわしゃと掻き混ぜた。 その大きな大きなてのひらが、自分の頭を撫でるのがすき。 「さんぞ。」 「あ?」 「俺、腹減った。」 「いつものことだろうが。」 「うん。いつものこと。だから食べに行こう?」 ぐいっと三蔵の法衣をひっぱれば、ふんっと鼻で笑う声が聞こえて、三蔵が歩き出す。 真っ赤に染まった部屋をでれば、三蔵はぐっと伸びをして体を解す。 朝からずっと座りっぱなしで大変だったよね。 いつもいつも、三蔵は大変そうだ。 急がしそうで、大変そうで。 口では散々文句を言いながらも、ちゃんと与えられた仕事をこなしている三蔵をすごいと思う。 あの量の仕事を、ちゃんと一日で片付けてる三蔵は、やっぱりすごいんだと思う。 「何が食べたいんだ?」 三蔵の言葉に自然と口元が笑った。 やっぱり三蔵はすごいと思う。 優しいと思う。 こういうとこ、すごく好きだ。 「肉まん!!あ、でもギョーザも食いたい!!」 「どっちも中華だな。」 「でもなんでもいい!三蔵と一緒なら、なんでも美味いし。」 「……行くぞ。」 すたすたと歩き出した三蔵を慌てて追いかける。 俺よりも歩くのが速い三蔵は、すぐにすたすたと俺の前を行っちゃうけれど。 ほんの少し俺が走れば、それは簡単に追いついて。 それにもっともっと前に行っちゃったときは、ちゃんと立ち止まってくれる。 タバコを取り出して、口に咥えて、それを口実にちゃんと立ち止まって待っててくれる。 院から出れば、あたりはすでに暗闇へと変化していて。 さっきまでの真っ赤な世界が薄暗い世界へとかわっていた。 ほんの20分かそこらしか違いは無いというのに。 「暗いな。」 「でも月明かりがあるから平気じゃん?」 「そうだな。」 そしてすたすたと歩き出す三蔵を、俺は追いかけた。 →夕焼け |