■■■ 20. sunglasses


「な、さんぞーってさ、新聞読むときメガネかけるじゃんか。」
「あ?それがどーした。」

ばさりと新聞をめくって、三蔵は大してどうでもよさそうにコーヒーをすする。
隣でちょこんっと座った悟空が、三蔵の顔をじっと見つめた。
自分のかけているメガネをジーっと大きな瞳を更に大きくさせてみてくる悟空。
三蔵はため息を一つ零すと、くるりと悟空に背中を向けた。

「ああっ!?三蔵なんだよソレ!?」
「煩い。気が散る。向こういけ。」

しっしっと手で、向こうにいけと合図する三蔵に頬を軽く膨らませて。
悟空はそのままテーブルにべたっとつっぷした。
冷たいテーブルが少しだけ、心地よい。

「ちえっ。」
「………。」

黙り込んだ三蔵は口をきいてくれない。
それくらいわかっている。
だから黙って、一人数日前を思い出していた。

数日前まで4人ともサングラスをかけていた。
もちろんそれは顔を隠すためで、なんだか最近増えた妖怪たちからの襲撃を少しでも減らすためで。
妖怪たちの襲撃自体はどうでもいいのだが、いかんせんうざったい。
西に行くにもそれで少しの時間をロスするわけで、誰の提案だったかは忘れたけれども。
そのサングラスをかけた三蔵を初めて見たとき、驚いた。

整った三蔵の綺麗な顔が、さらに引き締まって。
かっこよくって、似合ってて、怖いくらいだった。
かっけーって思って、でも次の瞬間少し寂しくなった。
ただでさえ感情の読めない三蔵の表情が、益々読めないような気がして。
サングラスの向こう側。
あるはずの紫暗の瞳が見えないのも悲しかった。
三蔵のあの瞳には強い力があって、あの瞳の強さ、宿る光の強さが何よりも好きで、自分が惹かれるものだったから。

アレ以来、三蔵のメガネがどうも気になる。
サングラスと違って瞳は見えるけれども、どこか寂しさはあのときのままだ。
似合わないとは思わないし、似合っていてかっこいいとは思うけれども。

「三蔵って目、悪いわけじゃないんだろ?」

メガネをかけていなくても、銃の標準は狂ってはいないから悪いわけじゃないのだと思った。
少しは悪いのかもしれないけれども、でもかけなければいけないほどなのだろうか?

「…なんだ。急に。」
「俺それ、嫌い。」
「あ?」

怪訝そうに振り返った三蔵の胸倉を掴む。
そしてそのまま自分に引き寄せて、驚いたような唇をそのまま奪った。
奪った唇はやっぱりいつもみたいにタバコの香りがして、ほんのり苦くて、甘い。

がちっとメガネのフレームが顔に当たって、それに少しだけ笑った。

「だってホラ、キスん時あたるじゃん?」
「てめぇは…。」

へへっと笑って、ぱっと手を離して。
三蔵が少し怒ったようにため息をついて、新聞をテーブルに放り投げた。
さすがに胸倉を掴んだのはまずかったかと、悟空が少しヤバイと思った瞬間、今度は悟空の胸倉が三蔵に掴まれた。

「さんっぞっ…?」

三蔵の綺麗な指が、ゆったりと動いて。
そのままかけていたメガネにかけられる。
するりと取られたメガネ。
流れるように慣れた手つきでそのままコトリとテーブルの上におかれたのが視界の端に映る。
そしてそのまま。

今度は悟空の胸倉が引き寄せられた。

そして奪われる唇。
噛み付くようなキスに、意識は一瞬にしてもっていかれた。

「んっ…。」

くちゅりと音がして、絡められた舌に頭がぼうっとしてくる。
それはさっき悟空がした、ただ唇を押し当てるだけのものとは明らかに違っていて。
先ほどよりも熱くなった悟空の吐息が、三蔵の鼻にかかった。
少しだけ瞳を潤ませながら、悟空は力の抜けた拳を三蔵の胸に押し当てる。
逃げようとした舌を追いかけられて、執拗に絡められて。
お互いの混ざり合った唾液が、ぽたりと。
テーブルに垂れた。
それが合図かのように、三蔵の唇が離れる。

そこでやっと呼吸を取り戻して、悟空は瞳を開けた。
そこにはやっぱり紫暗の瞳が、自分を見つめていて。
その瞳に、ばかみたいに瞳を蕩けさせた自分が映っていた。
それにカーッと体が熱くなる。

「誘うのだけは益々上手くなりやがって。」
「は?」
「覚悟しろっつってんだよ。」

もう一度。
自分の顔の目の前に近づいてきた三蔵に、反射的に瞳を閉じた。






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