■■■ 22. Let it be


三蔵と悟浄と八戒と。
4人でいるときの些細な会話とか。
悟浄と喧嘩していて三蔵にハリセンで叩かれたときとか。
そういう時は、別に普通なのに。

どうして違うんだろう?

「悟空。」

耳障りのいい、三蔵の声で名前を呼ばれるのが好きだった。
普段4人でいるときに呼ばれても、そんなに感じないのに。
二人きりで部屋にいるとき、三蔵のあの紫暗の双眸にみられながら呼ばれると身体が震える。
わなわなと震えて、膝が折れそうになって。
まるで金縛りにあったみたいに身体は固まってしまう。

「悟空。」

もう一度呼ばれて、こくりとつばを飲み込んだ。
自分がつばを飲み込むその音が、あたりに響いてしまったんではないかと思うくらい大きく感じて。
窓枠の下にあるベット。
ソコに腰掛けてる三蔵が、ベットサイドのテーブルにある灰皿にタバコを押し付けた。

「こい。」

月明かりを背に、大好きな低い低い声で、三蔵が呼ぶ。

一歩。
足を踏み出した。
踏み出して、そのまま近寄る。
まるで導かれるように、そのままゆらりと身体が動いて。

どうしてだろう?

ただ名前を呼ばれているだけなのに。
ただ見つめられているだけなのに。

三蔵の目の前に立つと、三蔵は瞳を細めた。
そしてそのまま俺の手首を掴む。
それにびくりと肩が震えた。
手首に感じる三蔵の指の感触。ぬくもり。
掴まれたソコからぞわぞわと這い上がってくる何か。

「遅ぇ。」

言われてどきりと心臓が跳ねた。
ばくんばくんと鳴り響く音。

ただ手首を掴まれただけなのに。
身体は一気にカーっと熱を帯びて、心臓がばくんばくんと音を立てる。
呼吸が苦しくて、息の仕方さえ忘れてしまったんじゃないかと思う。

どうしてだろう?

ただ名前を呼ばれただけ。
ただ見つめられてるだけ。
ただ手首を掴まれただけ。

なのに三蔵の口にした俺の名前が、鼓膜を震わせた瞬間。
なのに三蔵の瞳が、俺の瞳を捉えた瞬間。
なのに三蔵の指が、俺の手首を掴んだ瞬間。

身体が熱を帯びて、下半身から一気に熱が湧き上がってくるのだろう。

それはいつも三蔵と肌を重ねているときと同じ。

がくんっと膝が折れて、そのまま三蔵に凭れ掛かると唇をふさがれた。
さらりと三蔵の前髪が、俺の額に触れる。
その感触にすら肩が震えた。
三蔵の吐息、指先、髪の毛、それらが触れるところ、掠めるところから熱は広がって、俺を快楽の波にさらっていく。

あとはなすがまま。

三蔵の指の動き、唇の動きに導かれるまま。
俺の意識は捕らわれて。

「悟空。」

三蔵の声。

「悟空。」

耳元を暖かな息が掠めて、三蔵の低い声が鼓膜を震わせて…。

「ごく…。」

大好きな三蔵の色を含んだ声。
それで呼ばれる俺の名前。
俺の名前。
三蔵の呼ぶ俺の名前。

「さんぞ…。」

伸ばした指先を、ぺろりと舐められた。







→ なすがままに




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