■■■ 24. alley


「腹減ったぁっ!!」
「うるせぇっ!!」

すきっ腹に響くくらいに悟空がうがーと叫んで、握り拳を作れば間髪いれずに三蔵のハリセンが飛んでくる。いつもどおりのパターン。
ぱぁんっと乾いたいい音が響いて、周りの人が振り返る。
振り返った先には「腹減った」と騒ぐ悟空と、金髪の綺麗な三蔵法師がいるから益々みんなの注目を集めてしまうのはしょうがないことで…。
八戒は苦笑した。
楽しいのだけれども、騒がしいのは周りに迷惑かもしれないからだ。

「まぁ、まぁ…三蔵も少しくらい買ってあげたらどうですか。」
「コイツの少しはどれくらいだと思ってんだ。しかもキリがねぇ。」

ちっと舌打ちしてハリセンをまた懐にしまう三蔵。
どこにしまっているのやらとそのハリセンを見ていても、やっぱりどうしてソコにおさまってしまうのかわからなかった。
わからなかったけれども八戒にとっては別にたいしたことでもないのが事実で。
だからそのまま黙って笑った。

「あっ、肉まんのいい匂いがする!」
「………。」

ぐいっと引っ張られる三蔵の法衣。
いくらハリセンで叩かれても、怒鳴られても悟空は懲りない。
街を歩けば悟空の金色の瞳が更にらんらんと輝く。
三蔵は黙って腕を組んだ。

「あっ!あっちにはもろこし!」
「………。」

ぴきっと三蔵の顔に浮かぶ怒りのマーク。
八戒は苦笑しながらソレを横目で見た。
ぐいぐいと悟空によって引っ張られる三蔵の法衣。

「え〜っと…悟浄はどこまでいったんでしょうかねぇ。」
「知るか。」
「僕、探してきますね。」

逃げるが勝ちといった風に、わざとらしく八戒がその場を離れる。
きょろきょろと悟浄を探すフリをしながら横目で三蔵を見れば…彼の頭に増えてく怒りマーク。
周りからの匂いに集中してあたりをきょろきょろしている悟空は、ソレに気がついていない。

「な、な、さんぞー俺、腹減った!なんか買ってくれよー三蔵っ!!」
「……この万年空腹猿がっ…!!」

ぐいっと三蔵の法衣を引っ張っていた悟空の腕をはたくと、そのまま三蔵は踵を返した。
もと来た道をスタスタと歩き始めた三蔵に、悟空は不思議そうな瞳を向ける。
慌ててきょろきょろと三蔵と肉まん屋を交互に見て、足はどっちにむけていいのかわからない。といった感じで混乱していた。

「こい。」
「え?三蔵っ?肉まん屋さんはあっちだぞ?」
「こなければそのままおいていくぞ。」

言われた瞬間弾けるように悟空はひらりと身を翻した。
そのまま少しだけ離れてしまった三蔵との距離に近づくために軽く走る。

「三蔵っ。まてよっ!」

たたたたっ。
耳に届く聞きなれた悟空の足音。
自分を追いかけてくる悟空のその足音に三蔵の怒りマークが一つ減った。
ほんのりと胸の奥が暖かい。

少し歩いてすぐにあった路地裏がみえてきて、そこに三蔵は滑り込んだ。
さっき通ったときに見た路地裏だった。
そんな三蔵を悟空は慌てて追いかけて口を開いた……。

「三蔵ってば!腹へっ………。」

が。
すぐに言葉を失った。
いや、奪われた。

路地裏に入った三蔵を追いかけて自分も路地裏に行けば。
さっきまでは三蔵の背中しか見えてなかったのに、こちらを向いて立っていた三蔵と目が合った。
目が合った瞬間胸倉を掴まれて、そのまま開いた口を言葉ごと塞がれたのだ。
三蔵の唇によって。

「ンっ…!!」

驚いて息をすることもできなかったため苦しそうに眉を歪める悟空。
そんな悟空の驚いたようなアホ面に内面で笑いながら、三蔵は悟空の唇に舌を滑り込ませた。
柔らかく暖かな悟空の舌を追いかけ、絡めては舌と自分の歯で甘噛みして。
歯の裏にある付け根の山を舌で舐めれば、悟空の膝がガクッと折れた。
崩れこみそうになる悟空の体を、胸倉を掴んだ手だけで支えきれるはずもなくて、もう一方の手で悟空の腰を抱き寄せた。

「はっ…ぁっ…。」

やっとこ唇が開放されたときには、酸欠からか、三蔵の舌の動きによってか。
息を乱して頬を紅く染め、潤んだ瞳の悟空が三蔵の瞳を見上げていた。
それにくっと三蔵は喉の奥で笑う。

「突然っ…なんだよ…三蔵…。」

息を乱しながらしゃべる悟空の息が、唇にかかる。
暖かなソレは悟空の感度良い身体が既に火照っていることを示していた。

「腹が減ってんだろ?」
「だから肉まん買ってくれっていって…。」
「俺でも食ってろ。」
「っ!?」

三蔵の言葉に心底驚いたのだろう。
悟空のただでさえ大きな瞳が、更に更に大きく見開かれて。
さっきまでうっすらと半開きだった唇は、ぱくぱくと言葉を発しずにただ動くだけ。

「アホ面。」
「さ、さ、さ、さ、三蔵っ!?ここ外っ…!」
「関係ねぇ。」

悟空の胸倉を掴んでいた手に力を込めて、ぐいっとその小さい体を路地裏の壁に寄りかからせる。
そして胸倉を掴んでいた手を離すと、そのまま悟空に覆いかぶさるように壁に手をついた。
至近距離で悟空の金色の瞳を覗き込む。
こくりと悟空の喉が動くのが見えて、そのままその喉にかぶりついた。

ひゃっと小さく悟空の声が聞こえて、そのまま指を服の裾から滑らせる。
暖かな悟空の肌は三蔵の冷たい指先に驚いたのか。
びくんっと体を跳ねらせて、鳥肌がたった。
そしてつんっとたった胸の突起に三蔵の指先が触れる。

「ァっ…!」

がくがくと膝を震わせて、三蔵の法衣を握り締める悟空の手に力が込められる。
ぎゅっと瞳をつぶって唇をかみ締めて。三蔵の指の動きに耐える悟空に三蔵は思わず唇を緩める。
三蔵の指の動きが止まったことに疑問を感じたのか…うっすらと悟空の瞳が見開かれて。
次の瞬間今まで以上に悟空の頬が真っ赤に染まった。

「ばっ…!ずりぃよ三蔵っ!!」
「何が。」
「その瞳っ…ズリィっ…!!」

有無を言わさない光と強さを伴って。
それでいてなお悟空に対する愛しさを含む、誘うような強請るような色気を含んだ瞳。
勝利を確信しているのは明らかな、三蔵の瞳。
自分を覗き込むその三蔵の紫暗の瞳に、何もいえなくなる。
大人しく瞳を閉じた悟空の頬を、三蔵の金糸が掠めた。
嗅ぎ慣れた…自分の体にももう染み付いているんじゃないかとさえ思うマルボロの香りが、鼻を擽る。
そして耳にかかる熱い吐息。
次の瞬間三蔵の柔らかな唇と舌が耳に触れたかと思ったら、耳たぶを甘噛みされて膝がガクッと折れそうになるのを必死に堪える。

「さんっ…ぞっ…!」

悟空の三蔵の法衣を握り締める拳が、小さく震えた。




→ 路地




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