■■■ 25. scenery


三蔵は最近特に忙しい。
オヒガンが近いからだって三蔵がいってたけど、よくわからない。
三蔵はいつも俺よりも遅く寝るから、布団に入るのが遅いのはいいんだけれども。
いつもは俺の方が朝おきるのが早いのに、最近三蔵は俺よりも早くから起きてる。
起きて…いつものようにすでに書類やら書簡やらに目をとうしている。
だから全然寝ていないんじゃないかと思う。
だからそんな三蔵の邪魔をしたくないから、俺は最近一人で寺院の庭で遊ぶことが多くなった。

静かに三蔵の隣で絵を描いていようとしたことも、折り紙を折っていようとしたこともあったけれど、俺がそこにいるだけでうるさいと言われてしまって。
だからしょうがなく、三蔵の部屋の窓に面した庭で遊ぶことにした。
ここにいれば食事のときに三蔵が声を一言かけてくれる。
それが少し、嬉しいのも確かで。
三蔵が俺に、声をかけてくれるのが嬉しかったから。
だから最近の俺はここがお気に入りだった。

そしてこの季節。
この庭は紅と黄金で染まる。
庭一面にびっしりとつもる枯葉を足で踏むとかさかさとどこか心が跳ねる音がして。
いまだ地に降り落ちずに木に付いたままの枯葉は、少し風が吹けばはらりと舞い落ちた。
それを手を伸ばして受け止めるのが好きだった。
ふわりふわり。はらりはらり。
不規則に落ちる枯葉。
それが地面に付く前に受け止めるのだ。
しかもそれを握り締めてしまって粉々に壊さないように。
それが楽しい。

「すっげェ!」

ざざーっと勢いよく風が吹けば、一気に舞い落ちる紅と黄金の枯葉達。
その艶やかな色に、悟空は瞳を輝かせた。
腕を伸ばしても、伸ばしても、指先を掠めるだけで舞い落ちていく枯葉達。
綺麗で、綺麗で。
ずっと上ばかり見ていたら、そのまま後に倒れてしまった。
どさりと倒れた下には、やっぱりイロトリドリの綺麗な枯葉達。

『もう秋か。』

と三蔵が言ってた。

「秋は綺麗。」

かさかさと耳元で枯葉の音がする。
三蔵の手を掴んでから、何度目かの秋。

春はぽかぽか暖かくて。
夏はじめじめ暑くて。
秋ははらはら綺麗で。
冬はしんしんと冷たい。

「食べ物は美味いし、暑かった夏が終わるし、はっぱは綺麗だし。俺、秋好きだなぁ…。」

でも三蔵は忙しいからあまりかまってくれないけれど。

でもそれは別に秋じゃなくても、三蔵はいつでも忙しそうだったと気がついた。
いつでも忙しいなら、いつ呼んでも忙しいのではないか。
そう思った瞬間、今まで抑えていた気持ちが一気に膨れ上がった。
今すぐ。
今すぐ三蔵の名前を呼びたい。

「さんぞー!」

大声で名前を呼ぶ。
倒れたままで、三蔵のいるはずの窓に向かって。
お腹の底から声を出した。

「三蔵ってば!」

はらりはらり。
舞い降りてくる紅と黄金。
綺麗な色の枯葉達。

「煩い猿。仕事の邪魔するなと言っただろうが。」

ガタンっと窓が開いて、白い煙の筋が一筋。
真っ青な空に上っていく。
窓から見える、三蔵の金色の髪。

「見てみろよ!すっげェ綺麗だぜ!」

満面の笑みで悟空は笑った。
この綺麗な世界を三蔵にも見せたくて。
いつもいつも部屋で仕事していて、きっとこの紅葉達。
三蔵は今日はまだ見ていない。

「……俺は忙しいんだ。くだらないことで呼ぶな。」
「くだらなくなんてねェよ!だって凄い綺麗なんだ。三蔵にもずっと見せたかかったんだ。俺!なのにいつまでたっても三蔵の仕事はおわんねぇし。」

そう。
いつだってそうなんだ。
三蔵に見せたいもの。食べさせたいもの。聞かせたいもの。
いっぱいいっぱいある。
だからいつもそれを持っていくけれど。
この綺麗な世界は三蔵の元まで持っていくことは難しいから。
だから早く三蔵の仕事が終わらないかなってずっと思ってた。
早く三蔵とこの紅と黄金の世界を歩きたいと思ってた。
早く三蔵にこの世界をゆっくり見せたいと思ってた。

「服を汚すんじゃねぇよ。」
「な?綺麗だろ?三蔵もこいよ。気持ちいいぜ!」

三蔵の言葉をきいているのかいないのか。
悟空はにかっといつものように笑った。
庭のど真ん中。
枯葉達に埋もれて笑う悟空に、三蔵は口内に溜め込んでいたタバコの煙を吐き出した。
そして懐から愛用のハリセンを取り出して、それを悟空に見せた。

「うっせー。待ってろ。今すぐ叩きに行く。」
「待ってる。」

そこでまた悟空の満面の笑み。
幸せそうに嬉しそうに笑う悟空。
それに小さく舌打ちして、三蔵は振り返った。
振り返った先には山済みの書類たち。

「チっ…。ウゼェ…・。」

くしゃり。
一番上にあった書類が、三蔵の手の中で丸くなった。




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