■■■ 26. pop


しゅわしゅわしゅわ。

喉の奥で弾ける、痛くて、甘くて、涙が出る飲み物。

薄い青緑のビンに入れられたその飲み物は『ラムネ』って言うらしい。

俺が祭りにいって初めて三蔵に買ってもらった飲み物。





カラン。カラン。

ビンの中に丸い丸い硝子が入っていて、それは夜店のライトに綺麗に輝いてた。
きらきら、からから。音を立てて、ビンの中を弾ける硝子玉。

「な、三蔵。アレ何?」

前を歩く三蔵の法衣をくいっとひっぱると、三蔵はゆっくりと足を止めて俺の指差した方を見た。
俺の指先と三蔵の視線の先にあるのは、両親の横で楽しそうに笑う子供。
そしてその手に握られた空のビン。
夜店のライトに輝く綺麗な綺麗な硝子のビン。
その中にはカラカラ、カラカラ。輝きながら弾ける硝子玉。

「……ラムネのビンだろう。」
「何?それ?」
「飲み物の入っていたビンだ。」
「ふぅん…。」
「ソレを一つくれ。」
「え?」

三蔵の言葉に驚いて顔を上げる。
さっきまで遠くから見ていたビンが、目の前にぶら下げられた。

「いいの?」
「…あぁ。」

たぶん気まぐれ。
祭にきてから、買って買ってと叫んでいた俺に足も止めずに三蔵はスタスタと歩いていたのに。
ここにきて初めて、三蔵が買ってくれたもの。
ふんと鼻を鳴らして、三蔵が俺に差し出すソレを、俺は恐る恐る手に取った。

両手で掴むと、周りが濡れているそのビンは適度に冷たかった。
三蔵が声をかけていた露天を見れば、水の入った槽に浮かぶ沢山のラムネのビン。
きらきらと露天のライトに輝いていた。
それが凄く綺麗で顔が緩んでしまうのもそのままに、俺は三蔵を見上げた。

「さんきゅー!三蔵!」

俺がそういうと三蔵は、俺から目を逸らしていつもみたいにタバコを咥える。
それになんだか顔はやっぱり緩みっぱなしで、俺は手の中のビンを見た。
薄い青緑のビンにはいった、なんだか下の方から泡がぷくぷくと出ている液体。
よくみると、硝子玉がない。

「アレ?」
「どうした。」
「硝子玉がない。」
「ああ…それは―――。」

ひょいっと三蔵が俺の手からビンを取って、蓋になっていた部分を力強く指で押した。
とたんにかぽんっと音がして、硝子玉が下に落ちる。

「すっげぇ!!!」

しゃわしゃわしゃわ。
音を立てて沈む硝子玉。
ゆらりゆらりと液体の中を泳ぎながら沈む。
小さかった泡は、大きくはじけてそれがまた綺麗だった。

「こう飲む。」
「へ?」

そして三蔵はビンの口を自分の口に持っていって…そしてこくりと。三蔵の白い喉が動いたのが、目に入った。
とたんにとくんっと。左胸の奥が小さくを立てる。
それが何でなのかはわからないけれど、体がカーっと熱くなった。

ほら。とでもいいたげな瞳で、三蔵が俺にそのビンをよこすのを、そのまま受け取って。
さっきまで三蔵が口をつけていたビンの口をじっと見つめた。
ほんのり濡れるソレは、中の飲み物のもの?それとも―――。

「わかった。」

三蔵がやったみたいにビンの口に口を近づけて、飲み物だと言われたソレを一気に喉に通したとたん。

涙が出た。

「うわわわわわ〜〜〜!?」

しゅわしゅわしゅわ。
喉の奥がやけるように熱くて痛くて。
勝手に涙が出た。
でも冷たくてすかっとして嬉しい。

「ばか猿。」

声に出して笑っているわけではないけれども、楽しそうに三蔵が俺の名前を言った気がした。
だから驚いて顔を上げたら、涙で滲んだ向こう側。
三蔵の吸ってるタバコの煙に掠れて―――三蔵の緩んだ口元が見えた。

「さん…ぞ…?」
「なんだ。」
「笑った?」
「アホ面。」

否定しない三蔵に、顔が緩む。
初めて買ってもらった飲み物。
初めて見た三蔵の笑顔。

しゅわしゅわしゅわ。
手元で音が響いて。
じっとガラス瓶を見れば、カランっと音を立てて硝子玉が揺れた。





→ 炭酸飲料




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