■■■ 27. foam glass


「な?な?三蔵。コレ『ラムネ』?」

瞳をきらきらと輝かせながら、悟空がグラスを三蔵にさしだした。
新聞を眺めていた三蔵はソレを横目でチラリとみると直ぐ様新聞に目を戻す。

「あ?ちげーよ。」
「だってぶくぶくしてんじゃん。」

三蔵の言葉に悟空が口を尖らせる。
いわれて改めて悟空の手に持っていたグラスを見れば『泡ガラス』だった。
硝子の中に、空気の泡が含まれているもの。

「それは『泡ガラス』だ。製造の途中に硝子の中に空気の泡をそのまま残して、それを柄しにしているものだ。」
「へぇ〜〜。」
「どうしたんだ?それ。」
「え?あ、八戒に貰った。」
「…そうか。」
「綺麗だよな〜。」

うっとりとその硝子を見る悟空。
言われて見れば硝子の中に泡と、紫の染料が練りこまれているそれは、部屋の窓から差し込む光に輝いてキラキラと綺麗だった。

「水入れるともっと綺麗っぽい。」

そう呟いてそれに水を入れると、悟空は三蔵の机の上にそれを置いた。

「……邪魔だ。」
「いいじゃん。目のホヨー??三蔵仕事ばっかりだから、こういうの見て疲れとりなよ。」
「……フン。」

新聞をばさりと投げ捨てて、今度は机の上の書類やら書簡やらを手に取る。
手にとって、目を通して―――視界の端でゆらりゆらりと揺れる、悟空の頭にため息をついた。
三蔵の机に腕を組んで、その腕の上に顎を乗せて。
うっとりとした目で泡ガラスを見つめる悟空。
嬉しそうに笑ったまま、それをじっとみつめていた。

「おい…悟空―――。」
「あっ!そうだっ…。」

邪魔だから…というよりも気が散るからどこか別のところに行けといいかけた口を三蔵は閉じる。
何かを思いついて嬉しそうに駆け出した悟空が、窓枠に寄った。
寄って窓を押し開いて、両手を空へとかがげる。

「何してんだ。バカ猿。」
「へへへ。」

両手を掲げた悟空のてに、ひらり。はらり。
舞い落ちる黄色い黄色いイチョウの葉。

それを上手くキャッチすると悟空は満面の笑みで三蔵の机に戻ってきた。
その満面の笑みに三蔵が何もいえずにただ悟空の行動を見守っていると…。

悟空は受け止めたイチョウをその泡ガラスの水に浮かべて笑う。

「ホラ。こっちのが綺麗。」

ゆらりゆらり。
水面に浮かぶ黄色いイチョウ。
紫の泡グラス。
透明な部分と紫色の部分の隙間から、黄色いイチョウが揺れているのが見えた。

「やっぱり俺、黄色の隙間から見える紫が好きだ。」

にっこりと笑う悟空。
ため息をついた。
ゆっくりと。
ゆっくりとついて、書類も、書簡もすべて投げ捨てたくなる。

「おい。悟空。」
「何?」
「それはつまり―――。」

そういいながら悟空の腕を掴むと、悟空の口元が嬉しそうに笑った。
自分の言葉の意味が、三蔵に通じたことへの喜びから。

「こういうことか?」

鼻先が触れ合うほどに近い位置に、悟空の顔を持ってきて。
三蔵が口元を緩める。
金色の三蔵の髪の隙間から、紫暗の瞳が見え隠れする。
強い光を宿した、三蔵の紫暗の瞳。
黄金色の髪の隙間から、ちらりちらりと見え隠れして、悟空の瞳を見つめている。

それが―――悟空はたまらなく好きで。

「そうだよ。」

無邪気に笑う悟空の唇に、三蔵は自分のソレを重ねた。






→ 泡ガラス




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