■■■ 03. paradox 「もし俺と三蔵が、逆だったら?」 「えぇ。」 八戒がにっこりと笑って頷く。 それにうーんと首をかしげて。 「つまり…悟空が三蔵法師で、三蔵が孫悟空だったらってことですよ。」 「俺が三蔵法師?」 「はい。」 にっこり笑う八戒の、言葉の意味が理解しかねる。 何のために聞かれてるのかもよくわからなかったし。 わっかんねぇから、素直に答える。 「んー。俺、よくわかんねぇけど。かわんないんじゃねぇの?」 「かわりませんか。」 「俺が三蔵法師でも、三蔵が孫悟空でも、やっぱり出会ってたんじゃねぇかな。三蔵は俺を見つけてくれてたよ。きっと。」 「あの洞穴にいるのに?」 「だってあの三蔵だぜ?大人しく封印されてるわけねぇじゃん。」 はははっと笑うと、八戒もにっこり笑って。 「それもそうですね。」 「だろ?」 だって、それは当たり前。 きっと俺は俺じゃなくても、三蔵は三蔵じゃなくても、ちゃんと会ってた筈だから。 三蔵は俺が三蔵を呼んだって言ってた。 俺にはそんな覚えないけれど。 だから俺はきっと自分でも知らないうちに、三蔵を呼んでたってことで。 それはつまりきっと、三蔵が俺にとって必要だったからで。 ああーもーわけがわからない。 けれど、ソレは確かなこと。 「三蔵も同じことを言ってましたよ。」 「三蔵も?三蔵にも聞いたのか?」 「ええ。」 八戒の言葉に目を丸くする。 あの三蔵がこんな質問にまともに答えたとは思えない。 「『くだんねぇな。』って、言ってました。」 「ちぇ、やっぱソレかよ。」 唇を軽く尖らせると、八戒はまたくすくすと笑って。 肩にいる白竜が「キュ〜」と小さく鳴いた。 「『そんな質問、答えるだけ時間の無駄だ。』って。」 「俺と全然違うじゃんかよー。」 「そうですか?『俺は俺だ。俺以外の何者でもない。』って。」 「三蔵らしー。」 あはははっと笑って、八戒を見ると、八戒の瞳が嬉しそうに細められて。 ソレに一瞬どきりとする。 「『あいつもあいつだ。あいつ以外の何者でもない。』」 「ひでぇな。」 「でも、声は愛しそうでした。」 八戒の言葉に、僅かにほほが熱くなる。 どんな顔して三蔵はその言葉を言っていたんだろう。 あまりはっきりと言葉にしない三蔵の、言葉の深い意味を知るのはいつも大変だけれど、今回の言葉はどんな意味を含んでいるんだろう。 八戒の『三蔵も同じことを言ってましたよ』って言葉は、そのヒントをくれているんだろうか? 三蔵の言葉の意味も、八戒の質問の意味も、やっぱりよくわからなかったけれど。 でも何故か顔が緩んで、胸が弾んで、うずうずする。 「んー…と、よくわっかんねぇけど。俺、三蔵ンとこ行ってくる!」 「いってらっしゃい。」 笑って手を振る八戒を背に、俺は走り出した。 →逆説 |