■■■ 06. fight


傍に居ろとか、そういう類のことを三蔵は決して言ったことがない。
ついてこいとか、そういうことも決して言ったことがない。

その三蔵が、

『寂しかったら離れるな。くらいついてでもついてこい。』

と言った。

それが…なんだか嬉しかった。
いつもの三蔵じゃないみたいだったけど、でもいつもの三蔵だった。
なんだか胸がわくわくして、なのに苦しくて、わけがわかんねぇ。
こんな気持ち、わかんねぇけど、でもやっぱり嬉しかった。
嬉しかったから、素直に頷いた。
頷いた瞬間、タバコを口に咥えた三蔵の唇の端がわずかに動いたのを、俺は見逃さなかった。

それが更になんだか嬉しくて。

胸がわくわくする。
わくわくして、なのに苦しくて、わけがわかんねぇ。
でも楽しい。楽しいし嬉しい。
よくわかんねぇけど、顔が自然と笑っちまってしょうがねぇ。

「ウゼェ。」

とか言われて、蹴られて、ハリセンで叩かれて。
あっち行ってろとばかりに、しっしっと手で払われて。
いつもどおりの三蔵の行動なのに、以前よりもそれが嫌じゃない。

「俺がいたかったら、いていいんだろ?」

そう言って笑うと、三蔵は一瞬動きを止めて、軽くため息をついて。
ばさっと新聞をめくって、新聞に目をやって。
いつもどおりなのに、ソレ以上何も言わなくなった。

「俺、いたいから。三蔵の傍に。だからいるよ。」

声をかけても返事は無いけれど、でもそれもまた嬉しい。
ふんって鼻を鳴らして、タバコに火をつけて。
何も言わないってことは、勝手にしろってことなんだと思う。

だって三蔵が言ったんだからな?

『寂しかったら離れるな。くらいついてでもついてこい。』

って。
あの時の三蔵の瞳は、綺麗で、まっすぐで、曇りが無くて、力強かった。
アレは三蔵の本心。
いつも自分の気持ちを素直に言うけれど、それはストレートじゃなくてわかりにくかったりするけど、アレはすごくわかりやすかった。

つまり俺の好きにしろってことなんでしょ?

だからいくら邪険にされても、叩かれても、怒鳴られても、離れてなんてやらない。
いくら何を言われても、叩かれても、三蔵とはなれたときの気持ちに比べたら、全然なんともないし。
ってかそうやって三蔵がかまってくれるのが、正直嬉しい。

三蔵は本当に嫌がるときや一人になりたいときは、こっちを相手にしない。
完全無視というか、目に入ってないというか。
口もきいてくれない。

それがわかってるから、そんな時以外は。

傍にいるよ。

いたいから。





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