■■■ 09. cape


あと少し、足を前に出せばそのまま海に落ちる。
そんな際どい位置で、悟空はじっと。
その水平線の彼方を見ていた。
真っ赤な太陽は、海も、自分も、自分の立っている場所も、すべてを紅く燃えるような色に染めていて。
さわりと温かな風が頬をなでて、ふっと…振り返る。

風とともに感じた、タバコの匂いは覚えのある匂いだ。
いつもいつも嗅いでる匂い。

「………っ。」

振り返って、その場に立ってタバコを口に咥えた影に息を呑む。
真っ赤な太陽は、自分だけでなく彼をも紅く染めていた。
彼の法衣も、その双肩の経文も、口に咥えたタバコも、真っ赤に真っ赤に染まっていて。
彼の普段白い肌も紅く、まるで熱を帯びたように紅くて。

黄金色の髪の毛が、真っ赤に染まっていて。

そのあまりにも綺麗な姿に、悟空は息を呑んだ。
言葉が出ないほどに。

昼間の太陽の陽の下では、キラキラ、キラキラ、眩しく光る悟空の大好きな彼の髪もとても綺麗で好きだけれど。この夕陽の下で、キラキラ、キラキラ。まるで紅く輝く黄金のようなその髪も、とてもとても綺麗で好きだと思った。

「三蔵。」

ゆっくりと名前を呼ぶと、彼は気まぐれなのか自分に近づいてきてくれて。普段そっけない彼がきてくれたのも、嬉しかった。

ゆっくりと、その髪に手を伸ばす。
少しも表情を変えずに、彼はされるままだったから、了承の意味だと受け取って、そのままその髪をヒトフサ掴む。
柔らかなその紅金の髪の温かさ、柔らかさに胸の奥が苦しくて。

好きだと。
好きなんだと。
本当に自分は、彼のこの髪が好きなのだと。
気がついて。

「三蔵…俺、三蔵のこと好きだよ?」

まるでわかってるのかと問いかけるような悟空の言葉に、三蔵は口に咥えていたタバコをそのまま落とす。
ぐりっと足で踏みつぶすと、悟空の髪をくしゃっと掻き混ぜた。

「ンなこと、とっくに知ってんだよ。バカ猿。」






→岬



>>>戻る