■■■B.D 八戒から手紙が来た。 普段手紙なんてこないし、突然悟浄と一緒にやってくるのがほとんどだったから何事かと思った。 思ったけれど、普段こないソレはなんだか胸をわくわくさせて。 真っ白い封筒のはじっこを破って、中を覗き込めば、少し厚めのカードが入っていた。 『11月9日は悟浄の誕生日ですので、ささやかながらお食事会を開くことにしました。 よろしければ三蔵と一緒にきてくださいね。』 そのカードの文字を一つ一つ丁寧に読んで………首をかしげる。 『お食事会』『三蔵と』『悟浄と八戒の家に行けばいい』 それはわかった。 勿論行く。八戒の手料理は大好きだったし、なんだか楽しそうだと思ったから。 でも『誕生日』それがなんなのかよくわからなかった。 『悟浄の』とついていると言うことは、とりあえず『11月9日』は悟浄にとってなんかの日なんだろう。 それはわかった。でもよくわかんなかった。 だからそのカードを握り締めて、三蔵の部屋へと走った。 「なーなー三蔵〜。」 「…煩い。仕事中は寄るなと言っただろうが。」 「八戒から手紙がきたんだ。」 三蔵に言われたことなんて気にせずに、三蔵が向かっている机の上に半分乗っかる。 そしてひらひらと白い封筒とカードを三蔵の目の前にもってくると、三蔵はソレをちらりと見て筆を置いた。 どうやら興味を示してくれたらしい。 だから伸ばされた三蔵の手にそれをそのまま渡す。 「どうせロクでもないものだろう?」 「ご飯のお誘いだった。」 「じゃあ、言って来い。」 「でも三蔵と一緒にって書いてあるし。」 「知るか。俺は忙しい。」 カードの文字を三蔵の瞳が追う。 その三蔵の瞳を覗き込んでいたら、眉間に皺が寄ったのがわかった。 どうやらカードの内容は三蔵にとってはくだらないことだったらしい。 「なぁ、なぁ、三蔵。誕生日ってなんだ?なんの日だ?悟浄にとって特別なのか?」 問いかけると、ちらりと三蔵は俺の顔を見て…そして目を逸らした。 珍しいなと思った。三蔵が俺から目を逸らすなんて。 「………特別…かどうかは知らんが、あいつが生まれた日だ。」 「生まれた日?」 「そうだ。」 「それってこの前庭の鳥の巣にあった卵から、小さな鳥がでてきたんだけどソレと一緒?」 「………そんなところだな。」 「じゃあ、この世に生まれてきた日ってことか。」 だからさっきそう言っただろうと三蔵が小さく言う。 俺は三蔵の机に半分乗りかかった身体を離すと、ひょいっと床に足をつけた。 「それってやっぱりスゴイ日だよな。」 「………そうだな。」 「悟浄は自分のそんなスゴイ日を知ってるんだ。すげぇな。」 「悟空。」 「ん?」 なんだか突然三蔵の低い声で名前を呼ばれて、一瞬だけどきりとして。 振り返るとまたそこには真剣な三蔵の瞳があった。 だからその瞳をじっとみて。 見ていたらまた三蔵は俺から瞳を逸らして、口元にタバコを持っていく。 言おうか、言うまいか、迷ってるみたいだった。 「お前の誕生日は――――。」 そこで言葉を切る。 俺の誕生日? 三蔵が言いたいことはよくわからなかったし、何を言おうとしていたのかもわからなかったけれど。 とりあえず、三蔵の机にとてとてっと近づいて。 三蔵の顔を見上げた。 少し戸惑ったような三蔵の顔。 それにちょっとだけ笑って。 「俺の誕生日は三蔵と会った日だろ。だって俺、あの日この世に生まれたんだ。」 光の手を取った日だから。と笑ったら、三蔵の指からタバコがするりと落ちて。 机の上でとんっと小さく音を立てた。 「ソレまでの俺はまだ生まれていなかったから。卵の中にいた、小さな鳥と一緒。」 にっと笑って、三蔵のタバコを拾う。 拾ってそれを三蔵に差し出して。 差し出した俺の指から、三蔵はタバコをするりとうけとった。 「俺勝手に、あの日を特別な日だと思ってたけど、やっぱり特別な日だったんだな!」 三蔵は何も言わなかった。 言わないまま、タバコを口に咥えて火をつけて。 ゆったりと煙を味わってるみたいだった。 俺から顔を逸らしてしまったから、どんな顔しているかなんてわからなかったけれども…。 「…そうだ。三蔵の誕生日は?」 「………俺は………。」 「いつ?」 間があるのが何でかわからないけれど、三蔵の背中をじっとみる。 ゆらりゆらりと揺れる紫煙。 少しだけ三蔵の身体が揺れて、くるりと。三蔵が俺の方を見た。 「俺も光に会った日だな。」 「一緒なんだな!」 なんだか一緒なのが嬉しくて、そのままにぱっと笑った。 笑ったら、三蔵の唇の端が僅かに持ち上がって。 そんな三蔵の顔、初めて見た。 初めてみたからか凄く凄く、嬉しくて。 「とにかく9日は悟浄の誕生日だから一緒に行こう!スゴイ日なんだから、やっぱりお祝いしないとな!」 「…そうだな。」 嬉しくて、でもなんだか優しい三蔵の瞳が恥ずかしくて。 とっさに大きな声でそういったら。 また三蔵が優しい瞳を細めて微笑うから。 だからまたなんだか見てはいけないものを見てしまったような気がして。 どきん。どきんって心臓が煩くなって、恥ずかしくて、なんだかその顔を直視していることができなくて………。 「さ、三蔵の誕生日もお食事会しような。」 「いらん。」 「なんでだよー!」 「自分で考えろ。」 「いってェ!!」 少し意地悪なコタエに唇を尖らせたら、その唇の先を指で弾かれた。 傷む唇の先。 でもなんだか自然と顔は緩んで…笑いが止まらない。 「あいつらと一緒に食事だなんて煩くてかなわん。」 「俺一人だけじゃお祝いにならないだろ?三蔵〜。」 「………。」 瞳を細める三蔵を見上げていたら、ぽんっと。 ぽんっと。頭の上に三蔵の手が置かれて。 わしゃわしゃと頭を掻き混ぜられた。 「うわわわわ。」 「俺は仕事中なんだ。あっち行ってろ。」 そして背中を押される。 「ちえ〜〜〜。」 押されたまま、その力に抗いもせずに足を一歩踏み出して。 ちょっとだけ、気になって振り返る。 振り返った先。 三蔵はいつものようにタバコを口に咥えていたけれども。 唇の端が僅かに持ち上がってた。 大好きな紫暗の瞳は書簡の方を向いているけれど。 唇の端が、持ち上がっていて――――。 「三蔵ずりィ。」 そう言ったら、ぎろりと睨まれた。 「さっさと行け。」 「わかったってば。」 肩を竦めて三蔵の部屋を出る。 睨まれたし、怒られたし、出てけって言われたけれど。 頭に残る、三蔵のぬくもり。 顔が自然とニヤケた。 あとがき お誕生日。 悟浄さんお誕生日おめでとうな感じです… 本来なら悟浄さんのお誕生日パーティーのはずなのに 気がついたら三蔵の誕生日の話題小説になってしまって 可哀相なパーティーになってしまうはずが 悟浄と八戒、二人とも出てこない… 悟浄さんのパーティーシーンすら出てこない… そんな小説になってしまいましたとさ!(大笑) すすすすす、すみません…。 ええっと三蔵様のお誕生日小説に続きます 2004/11/14 まこりん 補足? 色々思ったんですけれど… 悟空の誕生日って三蔵と出会った日でいいんでしょうか? 三蔵の誕生日は光明三蔵に拾われた日でいいんですよね…? なんとなく誕生日とか寺院ではしなそうなんで 八戒たちに会うまで悟空は知らなかったんじゃないかなーって。 三蔵の誕生日を祝うなんて寺院じゃしないだろうし、三蔵がさせないだろうし… 悟空の誕生日なんてあの寺院の人たちが祝うとはとても思えない… 三蔵は『誕生日』とは言わずに一年に一回。 悟空に肉まんを山ほど買ってきてる日があったっぽいですが(笑) ラスト、わかりにくいでしょうか…?ってか三蔵自体が難しい!! もっと素直になってよー!言葉にしてよー!! ってソレ、すでに三蔵じゃないし(笑) |