■■■B.D (2)



悟浄の誕生日だからと、八戒に食事に誘われた。
八戒と悟浄の住む家で開かれた、些細なお誕生日パーティー。
八戒がいつものようにニコニコ笑いながら悟浄に「おめでとうございます」っていうから、俺も同じようにそう言ったら、悟浄が少し照れくさそうに笑った。

「今更お誕生日も何もねェけど。」
「何言ってるんですか。大事なことですよ。お誕生日を祝うってのは。」
「そうだぞ!悟浄!なんてったって、この世に生まれてきた日なんだだから!」
「悟空の言うとおりですよ。」

ニコニコ笑って八戒が沢山の料理を出してくれて、あったかくて、美味くて、そして隣では黙々とただビールを呷る三蔵。それだけで心がほくほくしてくる。
笑いが止まらない。
騒いでも、煩くしても、三蔵もなんでか怒らなかった。
だからやっぱりいつものように笑って、はしゃいで、食べて、奪って…って奪っちゃダメか。
頬張った春巻きを飲み込んでから、思いついたことをそのまま口にする。

「楽しいな!誕生日って。また、やりたくね?」
「つうかてめェの場合は食いたいだけだろ。バカ猿。」
「猿って言うなァ!!」
「あははは。」

悟浄がビール片手に絡んできて、それから逃げようとしたら、八戒がいつものように優しい笑みで振り返った。
そしていいですね。と相槌を打って、空いたお皿を綺麗に重ねていく。

「僕のは―――当分きませんから、次は悟空か三蔵ですね。お二人の誕生日はいつなんですか?」
「俺?俺は―――えっと、いつだろ。でも桜が咲いてたから、そのへん。」

ん〜っとく首を傾げてあの日のことを思い出す。
三蔵の手をとって五行山を下りて、寺院に連れてこられて。
そこは辺り一面の桜色の世界。
風が吹いて、花びらが散って、ソレが凄く、凄く綺麗で。
その桜吹雪の中、立ち止まった俺を振り返った三蔵が………すごく、すごく綺麗で。
見惚れたのを覚えている。

「曖昧ですね。」
「……4月。」
「え?」

八戒と俺の会話に割り込んできた、低い、低い声。
その声の主が、会話に割り込んでくるなんて思ってもいなかったから、驚いて八戒と一緒に彼を見た。
ビールの入ったジョッキを口に含んで、彼は俺らから視線を外したまま静かに言った。

「4月、5日だ。」

「三蔵っ!?」
「なァんで三蔵が知ってるわけ?さすが飼い主様ってトコか?」

悟浄が楽しそうに三蔵に絡めば、三蔵はぎろりと悟浄をにらみつけた。
そして手は―――懐に。
カチャリと音がして、三蔵が何を掴んだのかわかって…悟浄は一歩、身体を三蔵から離した。

「そっかー俺、細かいトコまで覚えていなかったけど、4月5日か〜。へへへ。」
「あらま。」
「嬉しそうですね。悟空。」

なんだか顔が自然と笑ってしまって。
ちょっと気恥ずかしくて、へへっと頬を掻いたら三蔵がふんっと小さく鼻を鳴らした。

「三蔵が俺を岩牢から出してくれた日なんだ。」
「そう…なんですか?」
「そりゃ〜〜〜〜……。」

八戒は少し驚いたように、悟浄は顔を僅かに緩めて、俺と三蔵を交互に見て。
三蔵がぎろりと二人を睨むと、悟浄はまだなんも言ってねェだろと怒った。
そのやりとりが楽しくて、ついついあははと笑ってしまったら、八戒も楽しそうに笑ってた。

「じゃあ、4月5日ですね。次は。」
「でも三蔵の誕生日は?いつなんだよ。三蔵。」
「………煩い。」

4月5日まではまだまだある。
途中で三蔵の誕生日があってもおかしくないから。
だから聞いたのに、三蔵は眉間に皺を寄せてあまり言いたくなさそうだった。
だから俺が口を尖らせたら、三蔵がその口を見て…また、指で弾かれるかと思ったから慌ててその口を隠したら、その時目が合った悟浄がにっと笑った。

「なんだよ。俺たちに祝われたくないってか?三蔵様は。」
「煩い。んな面倒クセェこと、やってられるか。」

三蔵はそう言うとタバコを一本箱から取り出して。
口にゆったりと咥えるとそのままライターをタバコの先端に近づけた。

「なんでだよ三蔵ー!皆に祝ってもらえて、美味いもんくえて、スゴイ楽しいじゃないか〜。」
「てめェはこの前いったことの意味、わかってねェだろ。」
「「この前?」」

悟浄と声がはもって、マネすんなと取っ組み合いのけんかになりそうなところを八戒に止められた。
また三蔵の方を見れば三蔵は大きくため息をついた。
この前言われたこと。
う〜ん…と少し考えて…思い当たることは一つ。

「ああ。悟浄たちと一緒だと煩いから嫌だって言ってたこと?」
「………てめェは……。」
「あっ、俺一人でも寂しくないかって聞いたら――――。」

ぽんっと手を叩くと、とたんに三蔵は不機嫌そのものな顔になり、悟浄はここぞとばかりにいいこと思いつきました的な顔になって…八戒は驚いて目を丸くした後、少し困ったように笑った。

「ナニナニ!?三蔵様ってば小猿ちゃんだけにお祝いしてもらいたくて、言えないワケェ〜?」
「ご、ごじょ…。」

八戒が止めかけた時にはすでに遅し。

ガウン!ガウン!ガウン!!!

三蔵の銃が3回、大きく音を立てた。

「てっめ…当たったらどうするんだよ!!」
「外してやってるだけありがたいと思え。」
「っけんな!ホントは当たんないだけだろ!?」
「…死ね。」

ガウン!ガウン!ガウン!!!!

悟浄がいつもよりもすばやい動きでそれをよける。
後ろの壁には避けなければ当たっていた位置に銃弾がめり込んでいるので、本当に当てるつもりだったのかもしれない。
始まってしまった悟浄と三蔵のやりとりに、八戒は困りましたねェと、笑った。
いや、とめてくれよ。といったら、無理です。ときっぱり言われて。
うーん…と少しだけ悩んで、とりあえず目の前にあるご馳走を食べちまおうと思って、それを両手で掴んだら。

「てめっ!それは俺の分だ!!」

悟浄が俺の手からソレを奪った。

「もう食いかけだろ!いじきたねェことすんなよエロ河童!」
「このっ…いじきたねェのはどっちだ空腹猿!!」
「何ー!!」

あとはいつものとりのやりとり。
ぐちゃぐちゃの、ごちゃごちゃの、奪い合い。
テーブルの上が綺麗に片付いた頃には、俺はもう眠くなってしまっていた。















「そろそろ戻るぞ。猿。」
「ん?あ…もう、そんな時間?」

テーブルに突っ伏していた身体を何とか持ち上げて、顔を上げれば。
もうすっかり帰り支度の済んだ三蔵がたっていた。
眠くてだるい体が重い。
少しぼやける視界をこしこしと腕で拭って小さくあくびをしたら、頭上からため息が聞こえて一気に目が覚めた。

「…なんならココに泊まってけ。」
「ヤダ。」

お皿を洗って拭いていた八戒にサヨナラを言って、酔っ払ったままテーブルで突っ伏している悟浄にも声をかけようかと思って―――やめて。
先に二人の家を出ていた三蔵のあとを追いかける。

きらきら。
きらきら。
月明かりの下で。
立ち止まってタバコを吸っていた彼が振り返る。

「お待たせ!」
「待ってなんていねェよ。タバコを吸ってただけだ。」

嘘ばっかり。
そう思ったけど口にしなかった。したらきっとハリセンが飛んでくるから。
もう11月だからだろうか、少しだけ肌寒くて身体を震わせる。

「そろそろ長袖を着ろ。」

それを見られたのか三蔵にそんなことを言われた。
だからちょっとだけど驚いて顔を上げれば、三蔵はいつもどおりの表情でタバコを咥えてる。

「んーでも走ってると暑い。」
「風邪引いたら誰が看病ずると思ってるんだ。てめェは。」
「三蔵?」
「するか。ウザイ。」
「ちェー。」

唇を尖らせる。
尖らせた瞬間、ぱちんっと。
その唇を指先で弾かれて。

「それマジ痛ェんだぞ!」

ひりひりとした唇の先に、怒ろうかと声をあげた瞬間。
三蔵の咥えていたタバコが下に落ちるのが見えた。
じゃりっと砂の音がして、タバコを三蔵が踏み消して―――。

「てめェは俺の誕生日を風邪ひいて過ごす気か?」

ぐいっと腕をつかまれる。
剥き出しの腕に、三蔵の熱いてのひらのぬくもり。
それにかーっと頬が熱くなった。

「え?え?」
「29日だ。今度の。」
「え?そ、そうなの!?」

あわわわ。っと慌てて。
三蔵を見上げれば、少しだけ不機嫌そうな三蔵の顔。
ちょっと、読みにくい。
何を三蔵は考えているのか。

「そっ…か。29日か。わかった!お祝いしような。」

だからとりあえず頷いて。
頷いて―――少し考えて。

「二人………で?」

ちょっと伺うように言えば、三蔵の眉間に皺が寄った。
そして俺の腕をつかんでいる三蔵の手に力が込められる。
それにしまったと少しだけ思って。

「なンで疑問系なんだよ。」

「ん〜…と、なんとなく…三蔵、そういうの嫌いかなァ?って…。」
「そういうの?」
「こうバカ騒ぎというか、誕生日会というか…。」
「嫌いじゃねェよ。時と場合によっては。だがな。」

ちょっと首をかしげた。
よくわかんないけれど。
わかんないけれど………まァ、とりあえず、嫌いじゃないらしい。
嫌いじゃないらしいから…うん。

「わかった!よし!楽しみにしてろよな!」

そういったら三蔵はフンと。
小さく鼻を鳴らした。










あとがき
なんでたかだか誕生日の話がこんなに長く…
そしてほんのりらぶ。
中学生日記のようなほんのりらぶに戸惑いが隠せません……
三蔵、不器用だなー!!ほんまに!!
自分で書いててこの不器用さが愛しくてたまらない…!!!
三蔵様のお誕生日までに
悟浄さんと八戒さんのヤリトリを番外で書きたい気分です
ここまで設定が出来上がると、ついついサイドストーリーが…
その頃の二人偏(さてはてその頃彼らは偏ともいう)
を書きたくなってきます。

2004/11/16 まこりん





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